そして8

地方の雑貨店で できること|そしてわたしは、紙をすきになる[第8話]

紙がすき。
中でも手作りの紙がすき。
なるべく、すきな紙を残していきたい。
そのためにわたしにできることがあれば、したい。

大学での研究や一人旅を通して紙への思いが強まっていたわたしは、その思いだけを頼りに就職活動をした。どんなに自己分析をしても、いろんな分野の企業の説明会に行っても、変わらなかった。
思考の行きつく先はいつも「手仕事」「紙」「文化」「地域」だった。

ただ、紙を残すために何かしたいと思っても何をすればいいのか想像もつかなかった。紙が関わる領域はとんでもなく広いし、一番好きな手漉き紙だけに絞って仕事を探しても、紙や手仕事をとりまく状況を変えられる気がしない。

紙に関わりたいけど、紙だけには絞りたくない。今、世の中に流通しているものの、ものづくりの始めから終わりまでを感じたい。できれば、旅の中で「ここで暮らしたい!」と感じた数少ない地域、倉敷か金沢の企業がいい。

そんなことを考えて、わたしは岡山にある製造小売の企業に就職した。


Website: axcis.jp

就職した株式会社アクシスでの仕事は大きく3つに分かれていて、

①製造業としてアクシスオリジナルの商品企画・デザインから海外での製造工場とのやり取り、日本全国の雑貨店や建築会社への卸や営業をする部署。

②小売り業として自社製品と他社のセレクト商材を扱うショップ「axcis nalf」「AXCIS CLASSIC」の運営を行う部署。

③岡山駅近くの商店街でクラフトビールの製造とビールパブ「ARMADILLO BREWERY」の運営をする部署。

従業員数は100人にも満たない小さな会社だけど、ものをつくること・売ることに広く関わり、岡山という地域の中での人との出会いをたくさんの経験をさせてもらった。

わたしが配属されたのは、上記②の小売り部門の「axcis nalf」という店舗。毎日に小さななにかをもたらしてくれるモノや道具を集めたセレクトショップの中で、月替わりの企画展の運営、文具コーナーの商品選び、作家さんとのやり取り、ディスプレイ、レジ打ちや接客、検品。
小売店の中で必要な業務を一通り経験した。

「どんなものが今、売れているのか」「どんなお客さまがどんなものを求めているのか」というお客様の反応を肌で感じながら、「じゃあ、どんなものを仕入れたらいいのか」「どんな企画をしたら喜んでもらえるのか」を考える仕事を2年間して、店舗での小売販売の面白さと楽しみと、苦労を知った。

axcis nalf で働きながら感じていたことは何度かnoteでも書いているので、もしかしたら読んでくれた人もいるかもしれない。


岡山という地方の小さな雑貨店で2年間働いてみて思ったのは、「小さなことでも、ひとつずつ丁寧にちゃんとやるのが大切」という なんだかすごく当たり前なことだった。

小さなお店の企画展を、楽しみに訪れてくれる人がいる。
少しめんどうだと思ったことをちゃんとやってみたら、気づいて褒めてくれる先輩やお客さまがいる。反対に、簡単に手を抜いたり適当にしたら、伝わる人には伝わってしまう。
すきな作家さんにすきなところを伝えたら、喜んでもらえる。お店で作品を販売させていただいたり、お仕事を辞めてからもつながりが続いたりする。

そんな小さなひとつずつを、自分の中で誇れるくらいちゃんとしていくことで自分も満たされるし、周りの人も喜んでくれる。
企業の中で効率や利益を求めながらも、それだけに偏らずに気持ちが満たされる働き方をさせてもらえたのは、とても幸せだったなと思う。

地方のゆるやかな時間の中で、小さなお店で、だからこそできることや叶うものもある。
紙を求めて、ものづくりを知りたくて選んだ会社で、豊かな仕事ができたこと。
これが、わたしが紙をすきな理由の一つです。


#そしてわたしは紙をすきになる #kamihitoe



こんにちは、kami/(かみひとえ)です。いただいたサポートは、「世界の紙を巡る旅」をまとめた本の出版費用に充てさせていただきます。今年の12月に発売できる…はず…!