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落ち葉と蝉

「冬が近づいてきたね」

入院患者と看護師がベランダから見える色づいた木を眺めていた。

同じく入院中の私は2人の会話につられて目線をふとあ上げる。

赤く染め上げられた葉が方々に小さな手を広げ、風にあおられて時折ひらりと落ちていく。

ひとしきり眺めたあと視線を戻そうとすると、ベランダの隅のほうに蝉の亡骸が落ちていた。

こんな時期に?と思わず目線が止まる。

どうやら少し日が経っているらしく、蝉の腹はカサカサで、生きている頃のあのパンパンに中身の詰まったような生々しい腹は見る影もなかった。

落ち葉の1枚くらい足元に落ちてきたらその乾いた体を隠してやれるのに、とも思ったが踏みとどまる。

紅葉とて、役目を終えた葉の死に様である。多くの生き物が仮死、あるいは死へ向かうこの時期に、たまたまあの蝉が居残っているだけなのだ。

私は想像する。今頃冥土で話に花を咲かせている仲間達にあの蝉は堂々と自慢するのだろう。

「秋の盛りを見たのだぞ」

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