前に見た夢の語。「DNA」

これは以前見た夢の話である。
夢なので、矛盾しているところは多くあるかもしれないが、そのままの形で書いていく。

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クローン人間。
彼らを捕まえるのが私の仕事。

見分ける方法は簡単だ。彼らの肩にはクローンと証明する印が押されている。これはタトゥーの色によく似てるが、如何なる方法を使っても消えないらしい。

クローンのようだからと、今はオリジナルの人間がタトゥーを入れることはほとんどなくなった。入れるのは本当の物好きだけだ。

クローンが認められたのは300年前。
1人に対し1人までのクローンが認められた。頭脳、芸術、容姿、スポーツなどに優れた、貴重な遺伝子を残すことが目的だった。

初めはよかった。特に頭脳の面においては目覚ましい効果があった。クローン達がある程度の年齢になると、技術が次々と開発され、そこからたったの10年で全く違う世界になった。

しかし、もちろん良いことばかりではない。犯罪が増えた。DNAも顔も身長も全てが同じクローンとオリジナル。指紋も似ている。年齢がほとんど変わらないと、どちらが罪を犯したのかもう分からない。クローンとオリジナルはお互いにお互いを犯人にしたがるし、クローンとオリジナルが協力して罪を犯していることもある。

そこで、かつては一度認められたクローンを禁止する法律ができた。
クローンが亡くなるのを待っていては、最長100年かかる。そこで、政府はクローンを捕まえることにした。

クローン取締局だけでは、増えすぎたクローンを取り締まるのは難しい。
そのため、政府は一般人にもクローンを捕まえてもらい、代わりに報酬を渡すことにした。

私はその一般人の中の1人だ。
特に登録はいらない。クローン取締局に行けばユニフォームが手渡される。このユニフォームを着ているときだけが捕まえることを許されている。
クローンに対する最後の優しさらしい。
そして捕まえたことをクローン取締局に連絡すれば迎えにきてくれて、その場で報酬を手渡される。増えすぎたクローンを取り締まるのが大変で、手続きを簡略化したらしい。

時々クローンは「私はクローンなんかじゃない、オリジナルだ!」と叫ぶ。咄嗟に口から出てしまうのだろう。
嘘をついたって肩には印が付いているのに。

私は月に100万は稼ぐ、トップハンター。
ハンターになった理由は簡単だ。うちは貧乏だった。小屋といった方が早い家で育った。半分腐ったような食べ物を食べ、雨漏れのする家で虫と一緒に生活してきた。もちろん大学になど行かせてもらえず、底辺企業に就職し、安月給で生活してきた。今はこの制度のおかげで見違えるほど良い生活をしている。

クローン捕まえる方法は簡単だ。ユニフォームを見て彼らは逃げる。逃げない奴はどうやって見分けるか。“臭い”が違う。他のみんなはこの臭いを嗅ぎつけることはできないらしい。

来る日も来る日も捕まえ続ける。逃げるやつを捕まえる、逃げない奴も“臭い”を嗅ぎつけたら無理やり捕まえて、肩を確認する。これの繰り返し。簡単だ。

ある日、オリジナルが自分のクローンを捕まえているところを見た。同じ顔をしている“自分”を捕まえるのはどういう気持ちなんだろう。自分だったら絶対にしない。自分で自分を捕まえるなんて。

そう思っている矢先、私は見つけてしまった。
自分のクローンを。もちろんクローンなので自分より若い。肌の艶が違う。髪型もキマっていて、自分で自分と思えないほどイケメンだった。違いはこれだけでよかった。彼は、ブランド物に身を包んでいた。隣にはこの世のものとは思えないほど綺麗な女の人がいて、左手の薬指には指が折れそうなほど大きな婚約指輪がついていた。幸せそうに笑う彼らは、高級車に向かって歩いていた。運転席には運転手。

突然自分の中にあった何かが切れた。
何故クローンがオリジナルの私よりいい生活をしているのか。何故?許せない。
今までの生活はなんだったのか。

気づけば走り出していた。おそらく今までの人生で一番早かっただろう。そのおかげで間に合った。車に乗り込む直前の彼の肩に手を乗せる。そして、そのまま襟を掴み、肩を露出させる。

印がない。金持ちは、印すら消せるのか。

驚いて瞬きもできないびっくりした顔の彼。泣き叫ぶ彼女。凍りつく周りの空気。

「クローンの分際で!」

こう叫ぶ私に、彼は予想外の言葉をかける。

「知らなかった。どうして誰も教えてくれなかったんだ。かわいそうに。申し訳ない。本当に申し訳ない。」
泣きながら私を抱きしめる。

申し訳ない?かわいそう?
かわいそうなクローンはそっちの方なのに。

ふと後ろからそっと肩に手を置かれる。振り返ると自分と同じユニフォームを着た男。私の肩を露出し、頷く。そして言う。「クローン確保。」

意味がわからない。
私は両腕を自分と同じユニフォームに身を纏った男達に抱えられながら、「私はクローンなんかじゃない、オリジナルだ!」そう叫ぶ。時々聞くそのセリフが、涙と一緒に何度も何度も勝手に口から溢れ出る。
わかってくれよ。本当にクローンじゃないのに。クローンはあっちなのに。
オリジナルのような生活をしている方がオリジナルと認められるのか。理不尽な世の中だ。

クローン収容施設に連行される。
通ったことのないはずの道なのに何故か懐かしい。

まるで故郷に帰るようだ。

収容施設を見た途端、突然頭痛と共にフラッシュバックが起きる。

自分が生まれてからあの小屋のような家に行くまで。

この収容施設はかつて自分のいたところだった。ここで生まれて、物心着くまでここで育てられた。

最後にここから出るとき「ごめんね」そう言われ、眠らされた。その時記憶を失ったのだろう。

思えば自分の肩を確認したことはなかった。私はクローンだったのだ。

同じDNAを持っていても、環境が違えば同じ人間にはならない。
私は期待されて作られ、思うように育たず捨てられたクローンだった。
そしてなかったことにされ、大切なオリジナルに気づかれないよう、クローンということを隠されて生きてきた。

回想に戻る。
現収容所(元クローン施設)から住んでいた町に向かう道中、幼い自分が車の窓に両手を当てながら、外の世界を見ている記憶。

(ここで目が覚める)

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