読書録 .3

明るさを求める気持ちは、すでに、きっと暗い。光がまぶしく見えるときの、あこがれにも似た切ない気持ち。

『明るい夜に出かけて』 佐藤多佳子

主人公はとある人間関係のトラブルをきっかけに、逃げるように休学し一人暮らしを始める。
物語の舞台はいつも真夜中だ。コンビニでの夜勤アルバイト。唯一の趣味である、ラジオの深夜放送。
一人称視点で物語は進む。飄々と、やや斜に構えたような語り口が、好きなラジオ番組の話になると釣り込まれて聴いてみたくなるくらい生き生きとするのが楽しいし、先が見えない不安の中にひとつきりぽつんと灯る好きなものに縋る気持ちが見えてしまうようで切ない。

ラジオ番組を聴くシーンが印象的だ。
ずっと遠くの明るいラジオブースから耳元に響く声。深夜の光の源。

緩やかに結ばれていく関係の描きかたが面白かった。主人公たちほど熱心にラジオを聴いたことがある訳じゃないけれど、「夜の中で、ラジオでつながってる感覚」はなんとなく、わかるような気がする。インターネットを介した、知らないのに知っている人、遠いのに近い人、だからこそ安心できたりする距離感も。それらを、新しいもの・奇異なものとしてではなく、彼等のごく自然に持つ感覚としてさらりと描いているところが、いい。

バイトリーダーで歌い手の鹿沢、同じラジオリスナーの風変りな少女佐古田、腐れ縁の旧友永川、それぞれぱっと飛び込んでくるキャラ立ちがキャッチーで、しかし読み進めてみるとどの人も、そんな最初の印象よりもはるかに面倒で、優しくて、いいやつらだった。

ささやかな物語だった。そこが、好きだ。もしかしたら何かが変わるかもしれない、変われないまま続くのかもしれない、わからないまま、だけど「こんな夜がまたあるといい」と小さく思う。そんなシーンが胸がぎゅっと熱くなるラストとして説得力を持つような、丁寧さを感じた。
希望を押し付けないながら、悩み迷う主人公らをみつめる眼差しは温かい。静かに応援されるような気持ちになる。
彼等の見つけた幾つもの “明るい夜” が、じんわりと胸に灯っている。