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【連載エッセー第3回】 お茶の時間に風呂場に向かう

丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日に更新予定)

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 新しい家に移って、初めて使うようになったのは、太陽熱温水器だ。我が家の屋根の上には、太陽熱温水器が乗っている。

近くの山から撮影

 水道の圧力で水が屋根に上がり、太陽熱温水器の中で太陽に温められ、風呂場の蛇口をひねると熱い湯が出る。気をつけないと火傷(やけど)するほどの熱さだ。

 3月の下旬でさえ、手で触り続けられないくらいの熱湯が出た。太陽熱温水器を設置してくれた大工さんも、「すごいですねえ」と感動気味だった。

 太陽熱温水器の湯は、お風呂だけでなく、料理にも使う。夏場は、そうめん・うどんを茹でるときに活躍した。ガスコンロで少し火を加えると、短時間で水が沸騰する。そのぶんガスの消費を抑えられる。

 ただ、太陽熱温水器からの管が通じているのは風呂場だけなので、湯がほしいときは、やかんや鍋を持って風呂場に行かなければならない。私たち家族にとっては当たり前のことになってしまったものの、思えば少し風変りな気もする。お客さんが来て、「お茶を」となると、私は台所ではなく風呂場に向かうことになる。客人にとっては驚きかもしれない。

ハンドルをひねると湯が出る

 我が家で大活躍している太陽熱温水器だけれど、弱点はある。季節と天気に左右されることだ。太陽が雲で隠れていると、湯の温度は下がる。夏なら雨の日でも十分に熱い湯が出るものの、今の家に住み始めた4月頃は、お風呂に入れるかどうかは天気しだいだった。「今日はお風呂日和だねえ」などという会話を家族でしていた。

 「弱点」と書いてしまったが、考えてみると、暮らしが季節と天気に左右されるのは当たり前のことだ。晴れでも雨でもほとんどおかまいなし、という生活がむしろ異常なのだろう。

 太陽の恩恵を直接的に受けることで、ガスを使うのとは違って、ぼんやりとだけれど、自分たちが自然のなかで暮らしていることを感じさせられる。前よりも、季節や天気を気にするようになった。そういう面でも、太陽熱温水器を使うことにして良かったと思っている。

 もっとも、自分たちが使っている太陽熱温水器が真に持続可能なものだとは考えていない。遠いところで工業的に製造されているようだし、自分たちで修理するのは難しそうだ。最後に廃棄する場合の方法も、よくわからない。太陽熱温水器については、後ろめたさもある。
 

『気候変動と子どもたち 懐かしい未来をつくる大人の役割』

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