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かもがわ出版メルマガ2023年Vo.147

2019年に始まったコロナ禍では、クラスターが発生した大学への誹謗中傷やコロナ治療に携わる医療関係者への嫌がらせ、県外ナンバーの車を傷つけるなど多くの差別がおきました。
そうしたコロナ禍における感染者やその家族へのバッシングに対してハンセン病回復者の方たちが懸念を表明しました。
コロナは、ウィルスや細菌が体内に侵入して症状が出る感染症ですが、同様にハンセン病も感染症の一種であり、ハンセン病患者やその家族たちは、国民のみならず政府からも苛烈な差別を受けてきた歴史をもっているからです。
ハンセン病問題は、人権教育の一環として教科書にも取り上げられ、小中学校で学ばれています。しかし今回のコロナ禍における感染者への偏見と差別を見るにつけ、自分たちの生活や意識にかかわる問題としてハンセン病問題を学ぶという状況にはなっていないのではないでしょうか。
新型コロナが終息しても、必ず次の新たな感染症は登場します。そのたびに同様の差別が繰り返されることは避けなければなりません。
5月末に刊行された13歳から考えるハンセン病問題 差別のない社会をつくるでは、ハンセン病がどういう病気で、どのような偏見や差別があったのか、国はどのように対応してきたのか、そして当事者である患者やその家族は、どんな思いで生活してきたのか、その歴史を学ぶことで、感染症にかかった人を差別する心をどう乗り越えていけるのかを考えます。
弊社の13歳シリーズとして刊行する本書では、古くは日本書紀にも登場するハンセン病の歴史、日本のハンセン病政策、ハンセン病療養所の様子や患者の暮らし、感染者の家族の経験、ハンセン病患者による人間回復を求める裁判などについて、中学生にもわかるよう平易な言葉と多くの視覚資料で網羅的に解説しています。
監修者は、ハンセン病市民学会教育部会の世話人を務めており、感染当事者を間近で支えてきた方たちによる監修によって、ハンセン病を自分の生活に引き付けて考えることができるよう作られています。
ハンセン病患者を差別的に扱い刑務所に近い療養所に強制収容する根拠となった法律は、1907年に作られました。そしてそれは日本国憲法にも引き継がれ、その法律が廃止されたのはなんと1996年のことです。感染率は弱く、薬の開発で治る病気になっていたにも関わらず、それだけの長い間この差別的な法律が存在していたのです。
映画「砂の器」にもあるように、当時ハンセン病に対する差別がいかにすさまじかったか、本書を読むとよくわかります。感染者には当然子どももおり、療養所内で子どもたちだけで集団生活を送っていました。しかし当時は、入所したら生きては出られないという暗黙の了解があり、家族から引き剝がされ、その現実と共に生きてきた子どもたちの生活や思いに胸が締め付けられます。刑務所のような療養所生活、強制不妊手術と人工中絶、患者家族への差別は、同じ人間への扱いとは思えません。20世紀末までそんな状況を半ば放置してきたことに戦慄をおぼえます。
感染症への差別のない社会をどう作っていくのか、そのためにわたしたちに何ができるのか、真剣に考えたくなる1冊です。

【新刊案内】

●幸福な国デンマークの謎に迫る!
『デンマークにみる普段着のデモクラシー』
小島ブンゴード孝子・澤渡夏代ブラント 本体価格1,700円
幸福な国デンマークの大元には生活に根ざしたデモクラシーが。世界の民主主義が問われる今、在住著者がその歴史と内実を紐解く。

●それは20年1月25日、東京地裁から届いた「特別送達」で開始されたー。
『ある裁判の戦記』
山崎 雅弘 本体価格2,000円
韓国差別を公言する竹田恒泰が子供に講演することに危惧を表明した著者が名誉毀損で訴えられた裁判で「公正な論評」と勝訴した記録。

●言論の自由を守り差別を許さない司法の姿勢を示した
『「ある裁判の戦記」を読む』
内田 樹・山崎 雅弘 本体価格600円
言論の自由を守り差別を許さない司法の姿勢を示した。同時発行の「ある裁判の戦記」の意義を被告の山崎氏と支援した内田氏が語りあう。

●コロナを含め感染症への差別をなくしていく道筋を考える
『13歳から考えるハンセン病問題』
江連 恭弘・佐久間 建 本体価格1,600円
ハンセン病への偏見・差別、それにたいするたたかいの歴史を学び、コロナを含め感染症への差別をなくしていく道筋を考える。

【重版情報】

●余裕のない現代人必見!1万3000年の「ヒマ」が生み出す縄文スピリット
『縄文人がなかなか稲作を始めない件』
笛木 あみ 本体価格1,500円
土器が装飾過剰になっちゃったり長野産黒曜石がトレンドだったり…現代に通じたり通じなかったりな縄文スピリットがわかる!

●漢字さがし・漢字のまちがい見つけ(4~6年)
『漢字の基礎を育てる形・音・意味ワークシート④漢字の形・読み編』
一般社団法人発達支援ルームまなび・笘廣みさき・今村佐智子
本体価格2,000円
『漢字の基礎を育てる形音意味ワークシート』4巻目。内容は、2巻目の4〜6年生版。2020年度、新指導要領に対応した漢字を使用。

●楽しく学べる特別支援教育実践101
『教室・家庭でいますぐ使えるSST』
安住 ゆう子・三島 節子 本体価格2,000円
特別支援教育の授業や家庭でも取り組めるゲームを幼児から学童期を対象に101種イラスト付で解説。SSTの理論も詳しく説明。

【総合ランキング】

保育・教育書 第1位
●特別支援教育のワーク教材
『SSTワークシート自己認知・コミュニケーションスキル編』
LD発達相談センターかながわ 本体価格1,500円
社会性の課題を抱える幼児から中学生くらいまでを対象にしたSSTワーク。子どもの相談からできたオリジナルな内容。コピーしてすぐ使える。

人文・社会 第1位
●余裕のない現代人必見!1万3000年の「ヒマ」が生み出す縄文スピリット
『縄文人がなかなか稲作を始めない件』
笛木 あみ 本体価格1,500円
土器が装飾過剰になっちゃったり長野産黒曜石がトレンドだったり…現代に通じたり通じなかったりな縄文スピリットがわかる!

【読者の声】

●子どもの発達を支える多職種協働システム
『医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校』
サリネン れい子 本体価格1,800円
スウェーデンの基礎特別支援学校で働く著者が事例をもとに解説する、子ども・若者の学びと発達の権利を保障する多職種協働システム。

【女性・60歳代・教員】
スウェーデンの多職種協働システムをご紹介いただき、大変参考になりました。具体的な事例と共に、そこに関わる機関や専門職の働きを示していただき、連携システムがいかに進み充実しているかを実感しました。私は公認心理師として子どもの発達支援に携わる一方で、大学教員として保育者を養成しています。その点では心理と保育・教育をつなぐ役割を担っており、サリネン様がおっしゃるように、各々の専門性をつないで子どもの発達を支えていくことの重要性をあらためて認識しております。
ご著書の中には、「2人のママ」というジェンダーに関わる内容も書かれていました。現在、私は「性の多様性を尊重した幼児教育」をテーマに研究をしており、「性別違和を感じる幼児への支援」や「周囲の子ども達への教育」さらに「当事者の親や親自身がLGBTQである場合の支援」など、当事者の話を伺いながら情報を集めて幼児教育現場に伝えていきたいと考えています。この領域において日本は遅れていますし、特に就学前の支援については手付かずの段階です。スウェーデンの取り組みをモデルとして日本に発信したいとも思いますので、もし参考になるような情報や文献がありましたら是非お教え頂きたくお願い申し上げます。また、機会があればスウェーデンの保育について、見学やお話を伺いにまいりたいと思います。お願いを申し上げて恐縮ですが、ご助言を頂けると幸いです。よろしくお願い致します。

【編集より】

竹田恒泰との裁判勝利で2冊の本を刊行
 
竹田恒泰って、ご存じですか。明治天皇の玄孫(げんそん、やしゃご。曽孫(ひまご)の子、孫の孫、子の曽孫)を売り文句に、政治評論などを行っています。2019年11月のことですが、その竹田氏を富山県朝日町の教育委員会が講師として招き、中高生向けの講演会を開催することを決めたのが、この問題の発端でした。
 戦史研究家の山崎雅弘氏がそのことを知り、ツイッターで講演会の中止を求めます。いくつかの根拠をあげて、竹田氏のことを「人権侵害常習犯の差別主義者」と論評し、中高生に聞かせるようなものではないと述べたのです。山崎氏が根拠としてあげた竹田氏の言説は以下のようなものでした。
【韓国は、ゆすりたかりの名人で、暴力団よりたちが悪い国だ。そういう国とは、付き合わないのが一番。韓国は黙殺し、反論は国際社会に対してすればよい。】(2014年2月12日11時43分)
【韓国が慰安婦の像を作るなら、日本は、嘘をつく老婆の像でも作ったらどうだ?口をとがらせてまくしたて、片手には札束を握りしめて、ゆすりたかりをしている感じで。】(2014年2月4日16時9分)
 講演会は中止になるのですが、そのことを根に持ったのか、竹田氏が、この投稿が名誉毀損に当たるとして山崎氏を告訴したのです。さらに、山崎氏のツイートをリツイートしていた著名人に対しても、同様に裁判を起こすことを宣言していました。
 山崎氏は、自分が裁判することを覚悟するとともに、他の方を巻き込んでご迷惑をかけないよう、自分の投稿をリツイートしていた内田樹氏に対し、解除することを求めます。しかし内田氏は、こう返事をしたのです。
「削除する必要はないと思います。竹田のような輩が訴訟すると脅したくらいで僕は別に困りません。僕へのご配慮はご無用です。こんなことを許したら、言論が萎縮してしまいます。裁判沙汰になるなら一緒に裁判闘争をしましょう。山崎さんが仲間なら心強いです。弁護士費用とかご心配なく。」
 こうして山崎氏は告訴され、2020年1月25日、東京地方裁判所から「特別送達」が送られてきて、裁判が開始されます。内田氏はただちに「支援する会」をつくり、ツイッターでカンパを呼びかけ、その後811日間に及ぶ闘いが開始されるのでした。内田氏の呼びかけに応え、千数百人がカンパを寄せ、裁判費用を賄うことができました。
 結果はご存じのようなものです。山崎氏は地裁、高裁、最高裁のすべてで勝訴しました。竹田氏が「名誉毀損」と批判した山崎氏のツイートは、「正当な論評」と認められたのです。
 今回刊行されたのは二つの本です。一つは、裁判を闘った山崎氏の単著で、『ある裁判の戦記—竹田恒泰との811日間の戦い』、もう一つは、その山崎氏と内田氏の対談を収録したもので、『「ある裁判の戦記」を読む—差別を許さない市民の願いが実った』です。
 前者では、裁判の開始から結末までがリアルに描かれています。何が争点となり、山崎氏が何を主張し、竹田氏側はどう対応し、裁判所はどう判断したのか。司法が正義の判決を下したことの経過と意味が分かります。同時並行で、竹田氏のような差別的言論を許す日本社会の問題点もえぐり出され、立体的な構造をもった本だと分かってもらえるでしょう。
 後者では、内田氏の視点も交え、裁判の意義、市民が支えたことの大切さなどが、より包括的に描かれます。対談ならではの読みやすさも特徴となっています。
 書店では、この数年間、嫌韓本があふれており、それを批判する本を並べた書店に右翼が押し寄せるなど、差別を許さない言論が危機にさらされている現状があります。しかし、この二つの本を読むことによって、そのような差別は司法としても許容できないという真っ当な判断が下されること、そういう判断は市民が自覚的に闘うことで支えられることなどが分かります。是非、この本を手に取ることで、あなたも闘いの一翼を担っていただければと思います。