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【連載エッセー第26回】ミミズに気をつける

 丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日をめやすに更新予定)
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 タケノコ掘りに使うような鍬(くわ)で畑の開墾を進めていると、うちの畑(になる土地)には大勢のミミズが暮らしていることがよくわかる。太くて立派なミミズが、あちらでも、こちらでも、顔を出す。ミミズは畑の土を肥やしてくれる心強い存在らしいので、なんだかうれしくなる。

開墾に使っている唐鍬(とうぐわ)

 ただ、地中に張り巡らされた笹の根を取り除いていくために、土に鍬を入れることになる。そうすると、どうしても、ミミズたちを傷つけてしまう。開墾作業をしていると、「あ~!」と叫んでしまうことが少なくない。鍬を入れた土の中に、不自然に短くなったミミズを発見したりする。黄色い体液が出ていることもある。ざっくり胴体を切断されて苦しそうに動くミミズを見ると、本当に申し訳ない気持ちになる。

 ミミズの立場からすると、人間がする開墾の仕事は恐ろしく非道なものかもしれない。地面の上を巨大生物がドタドタと動き回り、大きくて鋭い金属の刃が何度も何度も上から降ってくる。私たちにとっては夢に満ちた畑づくりも、土の中の小さな生き物にすれば、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

 私の罪悪感や葛藤をいっそう強くするのは、即死するミミズはほとんどいないことだ。土の中から見つかるミミズは、無傷でなくても、たいてい動いている。ミミズの意識がどういうふうになっているのかはわからないものの、苦しそうに身をよじっていることは少なくない。「痛みを感じているとは限らない」と言う人もいそうだけれど、素朴に見ると、激しい痛みがあるような気がしてならない。

 即死ならよい、ということではないものの、即死していたら、あきらめるしかない。一方で、痛々しく動く姿を目の前にすると、「どうすればよいのだろう?」という思いになる。「このミミズは、この後どうなるのだろう」「何とか生きていけるのだろうか」などと考える。「苦しませず、とどめを刺したほうがよいのでは」という考えが頭をよぎることもあるけれど、踏み切るのには抵抗がある(生き続ける可能性もあるし…)。頭を悩ませながら、開墾をしている。

土の中のミミズや虫を求めてチャボが寄ってくる

 もちろん、傷つける前にミミズに気がつけば、鍬の刃にそっと乗せるなりして、避難してもらっている。それでも、たくさんのミミズが開墾の犠牲になっている。

 そして、開墾の被害を受けるのは、ミミズだけではない。片方の後ろ脚がグチャグチャになったカエルが土の中から懸命に這い出してきたこともある。何かの幼虫が土の中で眠っていることもある。アリの巣も、いくつか壊してしまった。人間の目には見えにくい小さな虫たちも、私の鍬のせいでひどい目にあっているのかもしれない。

 耕運機も草刈機も使わない、殺虫剤も除草剤も投入しない、ささやかな畑づくりでさえ、動物を殺さずにやり遂げることは難しい(無理だと思う)。牛肉や豚肉や鶏肉を食べないようにするのは大事なことだと思うけれど、そうしたからといって動物を傷つけずに生きられるわけではない。なかなか悩ましい。

『気候変動と子どもたち 懐かしい未来をつくる大人の役割』

#里山 #里山暮らし #山里 #開墾