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たったひとりの幼馴染が自死した日  #やさしさに救われて 

12月1日。
空はよく晴れていた。18階のオフィスから、遠く海ほたるまで見通せた。

業界が近いBさんから電話がきた。
「すぐ、Line見ろ」
胸騒ぎがして席をはずす。
同級生Lineの未読が加速度的に増えていく。
「S君が事故にあったようですが、どなたか知りませんか?」
息ができなくなった。
文字もみえない。
まだ、何も情報は書かれていないのに。
瞬間的に感じた。
「アイツもういない・・。」

小、中、高校と同じ空気を吸って過ごした。
小・中は最終学年で同じクラス。高校は隣のクラス。
都市伝説的な幼馴染というやつだ。
長身でとにかくもてた。
クラスを引っ張るとか、喋りがうまいとか、そういうことではなかった。
小学校で父上を亡くし、母上に厳しく育てられた。
と、本人は言っていたが、寂し気なところも女子に人気だったのだろう。
バレンタインデイにどれだけチョコレートを代理で渡しにいったことか。
同じ大学に受からず、別の道を行く卒業の日
「おまえさあ。引っ越さないよな。いつでも、会えるよな。」
近所だから会える。
ワタシもそう思っていた。
成人式の飲み会にいくのにチャリで迎えにきた。
やっと就職が決まりお祝いしてくれたのは出社前日。
おかげで二日酔いの初出勤となった。
先生になってバスケを教えるのが夢で、その通りになった。
「俺は先生になって本当に幸せなんだ。
おまえ、なったらよかったけど、大変だったと思う。」
数十年経った同窓会でふと話してくれた。
楽しかった教育実習、受からなかった採用試験。
枝分かれした道の先で、ふと振り返る瞬間だった。
隣町に住んでたせいか、公園やら子供の運動会でよく会った。
あれこれ話すと時間が戻るようで、不思議な感覚だった。
じいちゃんとばあちゃんになって、茶飲み友達になって、いろんな話をする。

いるのが、あたりまえだった。
が、ある日、飲みに行けない。と、連絡がきた。
問題山積みの中学に配属になり、さらに辛い人事になったらしかった。
いまでも消せないメールがある。
死ぬなよ。
の返事
「俺が死ぬわけないだろう」

嘘つき。

携帯を握りしめる。
電話しなくちゃ。
アイツと一番仲のよかったH君は弁護士になっていた。
でて、お願い。
ワンコーアイツさ。死んじゃったんだよね?
「どこから聞いたの?」
Lineに事故だと流れてる
「これから、あいつんちにいく。騒がないようにできる?
詳細は隠してほしい。」
わかった。発信元に直連絡する。

腰が抜けたように立てなくなった。
窓際であたりかまわず泣いた。
慟哭。

みな驚いたに違いない。
同僚が肩を抱いて別の部屋に連れていってくれた。
若い部下たちがかわるがわる心配して様子を見に来た。
会社でなんということを!とは、だれも口にしなかった。
ひたすら、泣きじゃくり、放心したワタシに
仕事をせよという人はいなかった。
別室に代わる代わる来ては何も言わず側にいてくれた。
多くを聞かないみんながどれほどありがたかったことか。
無言の優しさが身に染みた。

涙が枯れて正気にもどったワタシに若い部下たちが帰宅を促してくれた。
「俺も友達亡くしたら、ショックっす
 誰かと一緒に帰ったほうがいいと思います
 ひとりじゃない方がいいです」
 そういわれれば、心許なかった。
そこに、Lineをみよ。と連絡してきたBさんから連絡。
「仕事が終わり次第、迎えに行くから一緒に帰るぞ」
ありがとう。

「明日無理しないでください
 誰かと一緒でほんとによかったです」
後押しされて、なんとか会社をでることができた。

午後、仕事らしい仕事してなかったなあ。
ようやく正気にもどったのは、Bさんに迎えにきてもらってからだった。

亡くなった原因も、状況もまったくわからなかった。
が、不思議と誰かに聞く気もなかった。
「つきあうぞ」
こんなとき近所の同級生はいい。
地元の静かな飲み屋にはいり、ひたすら杯を傾ける。
思い出しては泣く。
悔しい、哀しい、寂しい、苦しい。
「俺だっておんなじだ。
 でも、悲しんでも、Sは喜ばないと思う」
そうだよね。
B君もつらいんだった。
あんなことがあった。
こんなことがあった。
こんなこと言われた。
あんなこと言われた。
知ってることも、知らないこともあった。
「おまえさ。いっつも、誰かのことで泣いてるよな。」
そうだった。
困ったり、怒ったり、悲しんだりしていると
いつも、Bさんはタイミングよく駆けつけてくれた。
腐れ縁でもなんでも
泣いてるのをほって横にいてくれるのが嬉しい。

翌日
子どもたちには友達を失うということが体感しにくいようだった。
それでも、
長男は
何度も私の裾を引っ張って「どっかいっちゃだめだよ」と言った
次男は
「死んだ人は生き返りません
 過去には戻れません
 母ちゃんのせいではありません。以上!」
と言ってのけた。

ああ、ここにも優しさがあるんだな。

あいつのことは支えられなかった
でも
ワタシは救われてる。

こんなことで
今、傾聴ボランティアをしている
誰かがいつか 
#やさしさに救われて
と、書いてくれるかもしれないから 
















#やさしさに救われ

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