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すべてのオタクよ、『おにまい』を観て社会復帰せよ

こんにちは、考察オタクの近藤です!

2023年1月。長く続いたコロナ禍に世間は疲弊し、テレビを付ければ幾多の社会問題のニュースが溢れて、皆が将来へのぼんやりとした不安を抱える今日この頃──
そんな暗い現代社会に一石を投じる、全オタク必修のアニメが誕生しました。

その名も、『お兄ちゃんはおしまい!』です。

世界を救うアニメが誕生してしまった……

この記事では、
『おにまい』は「異世界転生」作品への問題提起であり、天才的な発想でオタクの社会復帰を後押しする意欲作である
……という感想を語っていきます。
「???」と思われた方も、まひろのように怪しい薬を飲まされたと思って、しばらくオタク語りにお付き合いください!

この記事が、皆さんが『おにまい』という素晴らしい作品を楽しむ上で少しでもお役に立てば嬉しいです!

0.『お兄ちゃんはおしまい!』とは?

本作を観たことがない方のために、簡単にあらすじを説明します。
すでに鑑賞済みの方は、スキップしても大丈夫です!

『お兄ちゃんはおしまい!』の主人公は、緒山まひろという引きこもりの男性……だった人物です。
ある日、まひろは妹のみはりに薬を飲まされて、中学生くらいの女の子の身体になってしまいます。

天才少女であるみはりは、ニート生活を続ける兄のまひろを心配し、「お兄ちゃん改造計画」を発動したのでした。

「どういうこと?」と思うかもしれませんが、安心してください。視聴してもおおむね同じ感想です。
とにかく、みはりはまひろを更生させるため、まひろを女子にしたのですが、もちろんその生活には様々な困難が待ち受けており……

まひろは脳も女性になっているため、いわゆる「ムフフ」な感覚は無くなっているのがポイントです。
(※BLゲームに興奮してしまう描写があったりします)

1.『おにまい』は令和の『ReLIFE』

そもそも、「引きこもりの男性に女の子の生活をさせる」ことが、なぜ社会復帰に繋がるのでしょうか?
アニメを観ていると、確かにまひろは成長していくため、なんとなくみはりの立場で温かく見守ってしまいますが……冷静に考えると斬新すぎます。

一般的な考え方では、引きこもりが社会復帰する上でのポイントは、「本人」の意思だと思います。
つまり、本人が引きこもりから脱するために頑張る覚悟があるかどうかが重要ではないでしょうか。

それがわかりやすく示された作品が『ReLIFE』です。
一行で内容を説明すると、とある研究所が、社会に馴染めない主人公を『1年間の高校生活を送る秘密実験』に参加させて、社会復帰を手助けする物語です。
この設定自体は、かなり『おにまい』と近いですね。

『おにまい』との違いは、『ReLIFE』の計画は慈善事業ではなく、「実験の成果として必ず社会復帰しなければならない」という契約である点です。
さらに、主人公が社会復帰に成功するかどうかは、この計画を担当している職員や研究所にも大きな影響を与えます。
つまり、主人公の社会復帰は「使命」であり、しかも大きな責任が伴っているのです。

夜明了(職員)「リライフとはニートを更生させるプログラムだと申し上げたはず。それがぬるくてどうするんです?」(※『ReLIFE』第1話より)

ここから始まるのは、主人公がパートナーである職員と共に、覚悟を決めて前向きに社会復帰に励む物語です。
主人公は学校生活において、現実でのトラウマが何度もフラッシュバックする中で、多くの問題に立ち向かいながら日々を生きていきます。
社会復帰は、辛く厳しい困難を乗り越えた先にあるものだと示されているのです。

では、『おにまい』の「お兄ちゃん改造計画」はどうでしょうか?
パートナーであるみはりは、まひろが早起きしただけで号泣して喜び、プリペイドカードの代金を負担した上にそのお遣いにひとりで行けたことを褒めたたえて、家庭科の授業でまひろが作ったクッキーがもったいなくて食べられないと感動する……

お昼はご馳走にしようね

『ReLIFE』とは比べ物にならないくらい甘々ですね。

しかし、こんな甘い計画の中でも、「女の子の生活に潜む苦労」「女の子の人間関係」など、男性には想像もつかない体験を重ねることで、まひろは確かに成長していくのです。

というわけで、「なぜ女体化が社会復帰に繋がるのか?」について、調べてみました! どうやら甘々のようですね。『ReLIFE』と比較して整理してみましたが、答えはわかりませんでした! いかがでしたか?(クソまとめサイト構文)

少しふざけてしまいましたが、しかし、この「なぜか社会復帰が成立している」という点こそ、『おにまい』の最大の発明であり、令和の日本を明るく照らす希望の光なのです。
(※ここでは一旦置きますが、最後に「女体化が社会復帰に繋がる理由」は改めて分析します)

『ReLIFE』のように厳しい現実と正面から向き合わなくても、もっと違うやり方で救われる道はある……それを示したのが『おにまい』だとまとめると、わかりやすいでしょうか。

2.まひろは異世界転生者?

さて、『ReLIFE』との比較を念頭に置いた上で、次の話題に進みましょう。
本記事の冒頭で、「『おにまい』は「異世界転生」への問題提起」だと触れました。
現代のアニメ界で一大ジャンルとなっている「異世界転生」に対して、その問題点に切り込んでおり、我々が「異世界転生とは何か?」を考え直すきっかけをくれている作品こそ、『おにまい』なのです。

ところで、『おにまい』は「異世界転生」作品であり、「異世界転生」作品ではありません。
このままでは意味不明だと思うので、順に整理していきます!

まひろという主人公は、「社会不適合者で引きこもりだったが、中学生の女の子として人生を再スタート」しています。
この構図、よくよく考えてみると、「現実世界では冴えない主人公が、異世界に転生して活躍する」という「異世界転生」のテンプレートと似ていると思いませんか?

まひろは元々、部屋に引きこもって美少女ゲーム三昧でしたが、女の子になったことで、まったく新しい生活がスタートします。
つまり、まひろは男だった時の「真尋」とは違う、まったく別の人物として生きていくことになるわけです。
こう整理すると、やはりまひろは「異世界転生者」だと言えます。

しかし、本物の「異世界転生」とは、ひとつだけ決定的に違う点があります。
それは、元の世界に戻る意思があるかどうかです。

一般的な「異世界転生」では、元の世界に戻る意思がありません
転生前の人生ときっぱり決別していることが多く、元の世界に戻ることはおろか、思い返すことすらない場合もあります。

なぜそうなるかというと、そもそも「異世界転生」とは、辛く苦しい現実世界へのカウンターであり、一種の現実逃避だからです。
「こんな過酷な現実は捨てて、よりよい理想の世界で生きていきたい」という願いが根源にあり、だからこそ、元の世界とは完全に決別したいわけです。
(※文脈的に具体例は挙げづらいので、なんとなくイメージで捉えていただければと思います……! 一応補足ですが、「異世界転生」を下げる意図はありません)

これに対して『おにまい』では、元の世界に戻る意思があります
まひろは、「戻れるものなら男に戻りたい」という態度で生活しています。まひろが女の子特有の感性に支配されても、理性では男としてのアイデンティティを尊重しようとしているし、更衣室では視線に配慮したりと紳士であろうとする姿勢も見て取れます。

このように、まひろは転生者としての人生を謳歌する中で、その態度は一貫して元の世界に比重があるわけです。

また、まひろは現実の自分から離れて新たな世界でやり直していますが、実際に「転生」したわけではないので、最終的には薬の効果が切れて男性に戻ります。つまり、元の世界に戻ることが確定しています。
そして、この事実は作中でかなり強調されています。

ひとつ面白いのが、「まひろが男である」という事実を知っている存在、「なゆた」の登場です。
まひろも2年生に進級する頃には、女子中学生としての生活にかなり慣れてきます。女の子特有の出来事にも当たり前のように対応できるし、不自然な行動も減ってきました。
これはまひろの成長ですが、裏を返すと徐々に男としてのアイデンティティを失いつつあるとも言えます。
しかし、このタイミングでなゆたという監視者が登場したことにより、まひろは男としての自覚を今一度意識しなければなりません。
まひろはどこまでいっても「元に戻れば男である」という事実を忘れないように描かれているのです。

さらにいうと、最も象徴的なのは最終話です。
この回では薬が切れかかって、身体が半分元に戻ってしまいます。あわててみはりが薬を用意しますが、ここでまひろは今ある女の子としての充実した生活のすぐ隣に、いつかは元の世界に戻る日が来るのだという、絶対に避けられない事実を今一度確認することになります。

このように、『おにまい』は「元の世界に戻る」ことをはっきりと描いており、「異世界転生」との違いをかなり意識していると感じます。
そして、この違いが明確になることで、「異世界転生」というジャンルの問題点が見えてくるのです。

3.異世界転生の問題点

さて、『ReLIFE』&「異世界転生」との比較を経て、ようやく本記事のメインテーマ、「問題提起」が見えてきました。

つまり、「異世界転生」は単なる現実逃避であり、問題と向き合う重要性を忘れさせてしまうのではないか? ということです。

『おにまい』が帰るべき現実があることを強調しているのに対し、「異世界転生」は苦しい現実を切り捨てて理想の世界で無双してしまいます。
これは後ろ向きな意味で「現実逃避」と捉えられても仕方ありません。

「異世界転生」を信仰する態度は、現実が充実しておらず、その事実に対して向き合う気もないという、ネガティブな姿勢を明らかにしてしまう側面もあるということです。

ここでいう「信仰する」とは、「異世界転生」作品に傾倒しすぎた結果、現実を忘れてしまうようなイメージです。
「現実ではいいことないし、理想の世界に浸っていればいいや」という姿勢で、「異世界転生」を信仰する「現実逃避層」も確実にいると思います。

そして、この「異世界転生信仰=現実逃避層」とは、引きこもりで美少女ゲームに耽っていた男の「真尋」にそのまま当てはまります。

「真尋」のように現実と向き合う覚悟が足りない者は、『ReLIFE』の社会復帰プログラムでは救えないことは1章で見た通りです。
しかし、みはりの「お兄ちゃん改造計画」でならば救えるのです!

そう考えると、『おにまい』という作品は、「異世界転生」のように現実逃避を良しとしてしまっている、全国の「お兄ちゃん」達をターゲットとした、社会復帰プログラムになり得るというわけです。

4.まとめ~「女子トイレの長蛇の列」が我々に教えてくれること~


ちょっと話が散らかってしまったので、違う角度からまとめてみます!

まず、「厳しい現実」に直面した時に、2つの向き合い方があります。
①『ReLIFE』:覚悟を決めて、現実と真正面から向き合う
②「異世界転生」:理想の世界に籠もり、現実から逃避する

しかし、『おにまい』はそのどちらでもなく、「女の子のパワーで救う」という第三の選択肢を取っているのです。
これは「異世界転生」の現実逃避に警鐘を鳴らしつつ、『ReLIFE』では救えない人々を救う、画期的な方法だと思います。

ここで納得していただけると嬉しいのですが、皆さんの当然の感想として、「アニメで救われたから何?」「俺にはみはりちゃんいないけど?」という形で、「アニメと現実は違うから意味がない」と感じる方もいるかと思います。

しかし、我々はまひろと同じ視点に立って、「女の子になる」体験を一緒にすることで、ある意味でアニメと現実を混同することができます
しかも、『おにまい』をよく見ていると、「これは画面の前のあなたの物語ですよ」と伝えるような演出が各所に仕込まれているのです。

まず、1話で最初にまひろが自分の姿を見る際、鏡ではなくタブレットのインカメラを使って自分の姿を確認しています。

なぜかインカメを起動している、ということは……?

この場面では、「タブレットを見るまひろ」と、「アニメ画面を見る視聴者」の関係性が同じになっています。この見事な構図によって、視聴者にまひろと「自分」を同一視させているのです。
これによって、「まひろの体験=視聴者自身の体験」でもあると示しています。

さらに9話でも1話と同じように、まひろと視聴者を同一視させる演出として、「まひろがアウトカメラでスマホの画面越しにかえでを見る」という構図が用いられています。

すしざんまい!

この場面も、現実世界で画面を見ている視聴者に「まひろはあなた自身ですよ」と伝えるような演出です。

さらに重要なのはこの直後のシーンで、まひろはスマホのカメラをインカメに切り替えて自分を画面に映します。

これによって画面には「視聴者と同一視されたまひろ」が写ります。
この演出には、まひろが女の子の生活で得た体験は、視聴者も同様に体験したものであり、まひろの成長も同様なので、視聴者にも同じように成長してほしい……という想いが込められているのではないでしょうか?

こうして視聴者をまひろと一体化させた上で、まひろの体験のリアリティがとんでもなく高いのです。
生理の描写や、映画館で何故か女子トイレだけ長蛇の列ができているなど、女の子特有の感性や性事情を、ここまで深く掘り下げるアニメは初めて観ました。
このお陰で、視聴者がまひろの体験から受け取る情報量が圧倒的に多くなっています。
ジェンダー的な話題は避けた方が無難とされる昨今で、このレベルの解像度で「女の子の生活」を「男性視点」から描いた功績は非常に大きいです。

このように、まひろと同じ視点で物語に没入できると、作中のまひろと同じように、現実でも少しだけ前向きになれるのではないでしょうか。
例えば、アニメグッズを買うために外出してみようなど……ほんの少しのきかっけにでもなれば、『おにまい』が世間に発信された意味があるのではと感じます。

★おまけ
さて、ここからはかなりニュアンス的な話なのですが……
まひろが「女の子の生活」を始めたことで、なぜ少しずつ社会復帰ができたのか、私が考える理由を語って締めたいと思います。
(※具体的な理由よりも、「なぜか復帰できた」という感覚&結果の方が重要なので、話半分に聞いていただければと……!)

大まかに2点あります。
(以下、すべて個人差があることは承知の上で、あくまで傾向として男女の区別を行っています)

まず1点目は、女の子に特有の「可愛くなりたい」という感覚。
まひろはこれにより自分磨きをすることで、自己肯定感の向上に繋がっています。

髪型を変えて嬉しいまひろ

2点目は、男性より女の子の方が、「やるべきこと」が多いということ。
生理・髪の長さ・男性の視線対策・化粧など、「何らかの行動」を半強制的に取らされる場面が作中で多々描かれています。
あまり知ったようなことは言えませんが、引きこもっている状況では、ちょっとした行動が大切なように思います。カーテンを開けてみる、少し外に出てみるなど……
まひろは女の子としての生活に追われているうちに、無意識に「行動」が増えました。やがて段々とレベルが上がり、ついには学校にも通うようになるのです。

以上、簡単ではありますが、「女の子の生活」の影響を整理しました。
他にも色々な視点があると思うので、twitterなどで意見をいただけると嬉しいです!

5.おわりに

というわけで、今回は『おにまい』と「異世界転生」について語ってきました!
一貫したテーマ性、原作と大きく話の順番を変える大胆な構成、そしてアニメーションはもちろん、作中に登場する本・ゲーム・アニメなど、細部にまでこだわり抜かれた傑作だと思います!
(さりげなく映るブリジットに気づいた時は驚きました)

★この記事で私が伝えたかったこと
アニメには、人を救う力があります。
これは私個人の経験に基づく、アニメに対する価値観です。

この現代社会は辛く厳しく、生きていくのは楽ではありません。
そんな社会と向き合い、生き抜くためには「救い」が必要です。
私はアニメを視聴する体験を通して、前向きに生きられるようになったと断言できます。

しかし、アニメを現代社会で前向きに生きる糧とするのではなく、後ろ向きに現実逃避するために消費している方もいるように感じます。

アニメを観ると気が楽になるという意味では、それも「救い」には違いないのかもしれません。
しかし、気を紛らわせているだけでは、本当の意味での「救い」ではないと思います。

そんな彼らを真の意味で救うことはできないのだろうか?
現実逃避の消耗品ではなく、背中を押せる存在になれないだろうか?

『おにまい』にはそんな想いが込められているように思えてなりません。

辛く苦しい現実に悩む方には、『おにまい』を見て欲しい。
「おにまい」の底知れぬ優しさで、そしてまひろの体験を通して、私達に生きる希望を与えてくれると感じます。

「アニメには人を救う力がある」──
そのことを改めて教えてくれた『おにまい』に、最大限の敬意と感謝を表したいです!
ちょっと抽象的な話ですが、そんなことを考えていました。

ここまで読んでいただいてありがとうございました!
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それではまた次回のかもしれない考察でお会いしましょう!

※記事内に用いた画像は、すべて考察を目的として引用しています。
©ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会
©夜宵草/comico/リライフ研究所

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