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『はーばーらいと』読了

ばななさんの本は、読み終えるといつも思わず胸に抱きしめてしまう。じんわり涙が滲む。ばななさんの新刊がリアルタイムで読めることの幸せをしばらく噛み締める。
読めた事で、またひとつなにか…きらきらしたカケラみたいなものが、わたしの中に埋め込まれたように感じる。控えめだけど、でも七色に輝くガラスのかけらみたいな、砂浜に落ちているシーグラスみたいなものが。

ばななさんの本は、決して夢のような綺麗な世界だけではない。むしろ、仄暗くて湿っていて寒くて目を逸らしたくなるようなもの。でもそこに、白くピュアに光っているものがある。決して燦然たる光ではないけれど、確実に強く光っている。闇の中でいつも光を見出す。

人のしあわせってなんだろう。
それぞれに違うと言ったらそれまでだけど。本当に自分のしあわせがわかっている人って少ないのかもしれない。
そして、”幸せ”とか、”よく生きるとは”、とか、哲学的な命題を人よりも深く考えて生きているわたしみたいな人ほどもしかしたら危ないのかもしれない。そんな難しいこと考えないで、美味しいもの食べよう、テレビ見て大笑いしよう、そんな子どものような人の方が、ひょっとしたら真理に近いのかもしれない。

わたしは子どもの頃から、生きる意味とは、とか考えてるようなタイプで、それはもう性(さが)なので仕方ないし、こう言う自分が面倒くさくて嫌いだったけど、SNSでは似たような人たちがたくさんいて、とても居心地が良く、こっちの人たちとの交流をとても楽しんでいる。
それに比例して、現実の世の中がどんどん不穏になり、精神的居場所が狭くなり、ああ、いつか気の合う人たち同士で、小さな村みたいなものを形成して、外界とはすこし離れた生活をしてみたい…なんて、ユートピアへの憧れを感じることもあった。

それはそれで上手くいけば、素晴らしいコミュニティができるのだろうと思う。でも同じくらい、危険を孕んでいるとも思う。どうしても偏っていくと思うのだ。スピリチュアルを学んでいくとそれを感じる。わたしはそれが怖いなと思う。そしてそう思ってしまうのが、わたしの中途半端な所でもあり、同時に自分を守ってくれるバリアでもあるように思う。

やはり結局のところ、向き不向きとか、持って生まれた性質に依るものなのだと思う。
突き抜けられる人、危ない橋を渡らない人。
突き抜けられる人は、どんどん潜っていける。危ない橋を渡らない人は、闇を見なくて済む代わりにそこまでのものは得られない。どっちがいいとか悪いとか、損得ではない。性質の違いがあるだけ。

自分を知るということ。なにが心地いいのか。コンフォートゾーンを抜けて突き進んで次のフェーズへ!高みへ!、それが好きな人なのかどうか。
何者にもならなくていい、ただ朝が来たら気持ちよく起きられて、美味しくご飯が食べられて。それで幸せと思うタイプなのか。
自分の幸せを見極めること。
それだけでよくて、それ以上はしちゃだめなこと。
押し付けないこと。
良かれと思って…とか、誰かの役に立ちたくてとか。特に子どもに対して押し付けないこと。これは本当に気をつけなければならないと恐ろしくなった。

娘が学校から帰ってきた。
昨日まで、行事があってあることをやらなきゃいけないのがすごく憂鬱でストレスだった彼女。
帰ってきたら、その行事がすんなりと終わって、楽しかったー!と、飛び跳ねるさかなのようにぴちぴちしてキラキラしていた。
これだ、これだよ。生きる喜び。楽しい、を全身で発散させている。顔中ニコニコの笑顔、じっとしていられない体。
そのうち息子も帰ってきた。あちー!とエアコンの効いたリビングに入ってきて、今日のごはんなにー?と聞く、日焼けした肌に白い歯をみせて笑う顔。
わたしはふたりの子どもたちの若く、キラキラのエネルギーを眩しい目で愛おしく眺める。わたしのかわいい子どもたち。この子たちが幸せでいてほしい。この子たちの幸せってなんだろう。わたしはこの子たちに、自分の理想や自分の思想を押し付けてないだろうか??怖くなる。わたしは思想強めのお母さんだから。自分の在り方を振り返って少し怖くなる。
基本的に、コントロールはしていないつもりでいるけど、きっと真綿でくるむようなこともしているのだと思う。子どもは、お母さんが大好きだから。お母さんの意に沿うようなことを、無意識のうちにしてしまう生き物だから。いいお母さんなら、尚更なのだ。尚更、厄介なのだ。
わたしはわたしでいることを変えられない。でもこうして自覚していればまだマシかもしれない。わたしが正しいとおもうことは、自分に対してのみ有効だ。他の人に押し付けてはいけないのだ。それをちゃんと自覚していさえすれば。とりあえずは。
中庸でいたい。
真理に迫りたい、深めたいという欲求と、日常をただ味わっていれば幸せというおおらかさの間で揺れていたい。
目に見えない世界に没頭している自分と、家族が帰ってきたらごはんを作るのを楽しむ自分でいたい。
真ん中でいたい、それがわたしの幸せなのかもしれない。

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