我が家の食卓・料理事情なぞを綴っていくこの🍎家の食卓シリーズ。立て続けの食事話もどうかなと思ったのだが、ちょうどよくネタができたため、記しておくことにした。

その１はこちら。

Bed in Breakfast。映画やドラマでみるアレである。ロマンティックな夜を過ごしたカップル（主に初めて致した時など）に、彼氏がおはようなんてちゅっちゅして、さぁ！なんて言ってベッドの上に朝ごはんのトレイを持ってくる、アレである。彼女は、ほんわ～と幸せムードになるアレ。すごい欧米っぽいアレ。

私は常々思うのであるが、このロマンティックナイトからのロマンティックモーニング。世のカップルは口臭とか気にしないのであろうか？（真顔）

これは私の中の長年の謎なのである。寝起きで、目やにだの涎だのついているかもしれない顔に、ぼっさぼさの髪。夜に歯を磨いて寝ても、朝起きたら、息が臭くないか？私のは臭いよ。胃弱だし、酒飲みだし。なので、正直、朝起きてからのおはようちゅっ、ちゅだって嫌だ。まず起きたら、歯磨き（せめてうがい）をしたいし、シャワーを浴びたい。世の人々は、どこから朝のロマンティックを引き出しているのであろうか。

そんなことを言う私であるが、夫アルゴとロマンティックに満ちた日々を送った時期もあったので、もちろん、アルゴが作ってくれたことがある。Bed in Breakfast。そしてそれは今でも「我らの歴史20年（もうすぐ21年）の中で語り継がれるべきネタ」の上位に輝かしくランクインしている。

出会いから付き合うまで、ちょっとしたロマンスがあり、アルゴも浮かれていたし、私だって浮かれていた。初めて会って2か月後に再会し、彼が19歳になった誕生日の数日後に付き合うことになったのである。付き合いたてのカップル。そりゃアルゴだって張り切ったのであろう。

当時は貧乏学生で安いマットレスを床に置いただけのぼろアパートメント暮らしであった。朝、起きたら横で寝ていたアルゴがいない。トイレか？と思いつつ、ベッドの中でごろごろしていたら、アルゴが「Bed in Breakfastだよ。おはよう、ハニー」などと言ってトレイを持ってきた。

トレイといっても↓↓このような足つきのものではなく普通のお盆。

更に言うと、ベッドも↓↓このようなヘッドボード付きのものではなく、床に敷いた安マットレスのみ。安いゆえに普通は木の枠？的な土台になるものとセットでくるのだが、私のはまんま、上のマットレスのみであった。

それまでアルゴは料理の経験が一切なかった。ついでに言うと、当時の私は一人暮らしだったため、私のアパートメントの冷蔵庫はほぼ、ほぼ空っぽ。当時住んでいたところのすぐそばに、コーナーストアがあったので、パンだの買ってきたのか？と思った。

ともあれ、私だって、そんなBed in Breakfastなどとロマンティックなことは初めてであったし、さすがアメリカ人なのである、しかもハニーだって、うふふふふ。うふふふ。やだわぁ、私ったら本当にアメリカ人のボーイフレンドができたのだわと思って感動した。浮かれていたのだよ、始まったばかりの恋にさぁぁぁぁぁ。

何もなかったから、あるものをかき集めた、と照れながら言うアルゴ（19歳）はとてもかわいらしかった。かわいらしかった。2回書くくらいに！勝手にキッチン触ってごめんね、とも。やだ、初々しい！

だが、Bed in Breakfast。私的には上記した他にも人々にお聞きしたいことがある。起き抜けにすぐごはん食べたい？（真顔）私は寝起きは良い方であるし、目覚めたらバッキリと起きて活動するタイプであるが、起き抜けにすぐに何かを食べる気にはならないし、プラス、ベッドの中で食事というのも気が引ける。パンくずとか落ちそうじゃん。私はボロボロよくこぼすのである。情けない話。

とはいえ、なんせ、いちゃいちゃ♡うきうき♡の時期だったし、もっさもさのアフロ（当時、アルゴはアフロだった）大男がもじもじしながら、朝ごはん、なんてかわいらしいじゃないの。ときめくじゃないの。しかも初めてキッチンに立ったのよ。私のために。うれしいじゃぁないの。

だが私のそのような浮かれっぷりも、差し出されたトレイの前に塵のように消え去る。30秒で。

目の前に出されたアルゴ作Bed In Breakfast。デロデロに伸びたラーメンらしきものに、アイスコーヒーらしきもの、そしてポテトチップスであった。

えっ……(沈黙）えっ……（二度見）？！

このほかに何が言えたのだろうか。だが、私は親から、出されたものを残すべからず、あなたのために作ってもらったごはんは必ず感謝の意を示し、おいしくいただき、完食すべしと厳しく躾けられているのだ。ゆえに、あ、あ、ありがとう…といってまず飲み物を口にした。

ぶふぉぉぉぉ……噴き出した。

アイスコーヒーかと思った。それなら寝起きでもイケる。だが、口にしたそれは、ラム＆コークであり、うわばみである我々の作るラム＆コークは、ラム5：コーク１くらいのものなのである。朝っぱらからパンチが効きすぎている。まったく、ジャック・スパロゥと愉快な海賊仲間ではないのである。

「ほら、朝さぁ、オレンジジュースとシャンパンのカクテルあるじゃん？Bed in Breakfastはおしゃれカクテルなのかな～と思って。でもなかったから、昨日の夜の残りの飲み物で作った！」

ミモザな。そのカクテルな。いや、それでいうなら、冷蔵庫にはオレンジジュースあったはずだし、むしろ無理やりカクテルにせんでいいのやで……しかもよりにもよって海賊仕様のラム＆コーク。

ロマンティック朝ごはん＝　ロマンティックカクテル　＝　飲み物はカクテルであるべし！＝　ないからまぁ、これでよし、の流れでラム＆コークになったのであろう。だが週末とはいえ、朝8時から飲むには張り切りすぎってもんである。そもそも起き抜けにコーラなんか飲みたくないよ。普通に水かオレンジジュースくれや！！（叫）

そしておそる、おそる手をつけたラーメンらしき謎スープ。スープボウルに盛り付けられたそれは、ぶにぶに、ぶよぶよであり。たまごを入れたのか、謎の白と黄色の塊が浮いている。しかも色が毒々しい。しかもナミナミとよそってあったため、零さぬよう細心の注意を要した。

覚悟を決めて、ずぞぞぞぞ、と口にしてまたぶふぉぉぉとなる。

何をどうしたら、こんなにもインスタントラーメンをクソまずく作れるのか！！と、正直、0.5秒でキレ散らかしたい程のものであった。

スープは、塩でも混ぜたのか、異様に辛く、先述した通り、一体、何分煮込んだのか、食感はほぼ、ほぼおかゆのような麺であり、卵にはシュレッド・チーズを大量に混ぜたらしく、溶け切らずに、にちゃにちゃしていた。チーズがチェダーだったせいか、色はものすごいオレンジ色であった。

インスタントラーメンを開発した安藤百福氏に全力で土下座しろ！と思った。インスタントラーメンへの盛大なるDis（Disrespect)であること甚だしいシロモノであった。

そんな謎の物体を、私は親の教えを守り、かつ、付き合い始めたばかりのボーイフレンドの初料理、スーパーロマンティック状態と維持するべしと、根性で半分は食した。ものすごい塩分であったので、そこに怒りの感情も伴い、いつもは低血圧の私もあの瞬間ばかりはものすごい高血圧になっていたに違いない。

アルゴはなんのコメントもない私を不安そうにみていたので、「ありがとう…すごいうれしいけど……これ以上は……無理ぃぃぃ（半泣き）」というしかなく、え、そんなに？！となるアルゴが自分の作ったものを口にして、ぶふぉぉぉぉっとなり（味見しろや！）涙目になると平謝りだったので、我々のロマンティックBed in Breakfastはそれで終了した。

私がぶふぉぉぉとなり、アルゴもぶふぉぉぉとなったため、シーツ、ブランケットは汚れ、2人で半泣きになりながら風呂場でブランケットとシーツを洗った（当時はコインランドリーで洗濯していたのだ）そして、もちろん、アルゴの初調理☆挑戦のため、キッチンは惨状であった。ラーメン作っただけなのに。

この一件がトラウマになった私はしばらくインスタントラーメンが食べられず、アルゴもまたキッチンに立つ、料理を作ることをしなくなった。二人の間で朝ごはん、という言葉すらしばらく口にしなかった。そして我々の長い付き合いにおいて、Bed in Breakfastは、二度と起こることはなかったのだ。

「俺さぁ、あの時、俺の朝ごはん、食べてくれなくて正直すげぇムカついたんだけど、あれは食べられないよねぇ。我ながらどうやったらあんなにクソまずいラーメン作れたのか、わかんないし、何を考えてラム＆コーク作ったんだって話よね～、あはは～しかも、あの時、冷蔵庫になんもなかったからね～。あはは～」

と、自分でも笑いごとにしているのだが、あはは～ではない。さすがにそれからアルゴは少しづつ、少しづつ、料理をし始めた。なぜだかアルゴ男友達は料理好きとか、コックさんだという人が多いのである。あと偏見かもしれんが、アメリカ人男性って割とおうちで料理をする人が多い。

数年を経て、アルゴは、フライドチキンが得意料理となり、ステーキを焼くのがとても上手になった。もっとも、アルゴ料理はシェフもびっくりするほどに気まぐれであるので、メインで食事を作るのはもっぱら私の業務である。

で、先週末。私は発熱して金曜の夜から寝ていたのである。風邪っぽいので、アルゴは階下のベッドで寝てもらっいた。なんせBBAであるので週末でも、具合が悪くとも早く目覚める。6時頃に目覚めたものの、熱のせいで起き上がれない。どうしたもんかな、とじゃれつく犬たちと一緒にベッドの中にいたら。アルゴ登場。

ちなみにまめ。通称・まめこさん（我が家の4歳♀のヨークシャーテリア。体重3キロ。名前の通り、まめのような小ささ）は、私だけが2階にいて、アルゴが階下からやってくると吠えまくる。おっそろしい勢いで吠え捲る。まめこさんは私たちのベッドを自分のベッドと思っており、私の横（＝まめこさん定位置）に潜り込むアルゴを敵とみなしているのである。

「大丈夫？熱ひいた？何か食べられる？朝ごはん、作ってきたよ」

朝ごはん、作ってきたよ

朝ごはん、作ってきたよ

朝ごはん、作ってきたよ

朝ごはん、作ってきたよぉぉぉぉ

↑↑　こんな具合に熱っぽい私の脳内でエコーした。や～ん、優しい♡とか、ありがとう、の前に、あのおどろおどろしい朝ごはんの記憶がまざまざと脳裏に浮かんだ上に、私の横ではまめこさんがうーうー唸っている。まめこさんの野生が不穏を感じたのであろう。

「あ、ありがとう」震える声で言ったら、アルゴは大笑いしながら「いや！！ラーメンじゃないし！ラム＆コークでもないよ！そしてマメはだまれ」と言ってトレイを差し出し、私のベッドを起こした。現金で、食いしん坊なまめ子さんは、食べ物を見るなり、アルゴの顔を見て、プリプリと尻尾を振っていた。

ベッドを起こす、というのは。現在、使用しているベッドはリモコンでうぃ～んと上がり下がりするベッド。病院ベッドのようなものなのだ。喘息などで寝ていると、まっすぐに体を休めるより、上体を起こした状態で休む方が楽なので、病みがちな私のためにアルゴが数年前に購入してくれたのだ。

さて、アルゴが約20年ぶりに作ってくれたBed In Breakfast。

スクランブルエッグ、ターキーベーコン、いちご、オレンジジュースとレモン・はちみつ入り紅茶。ヨーグルト。

えっ……？！普通じゃん！（驚）えっ……（二度見）？！

「昨日の夜も食べてないし、朝食べたくないの知ってるけど、少しだけ胃に入れて、お茶のみな。風邪だからレモンとはちみついれといた。甘いの嫌いなの知ってるけど、薬と思ってのみな」そう言って、ベッドに座ると卵をフォークにとって食べさせる。

やだぁぁぁぁぁ/////優しい！気が利く！これってば、今度こそ！20年ぶりに！ロマンティックBed in Breakfastじゃないのぉぉぉぉリベンジ大成功じゃぁないのぉぉぉぉ

と、私はにやにやし、震え、足をじたばたさせてみたわけだが、次の瞬間、アルゴはにっこりと笑って

「はい、あ～ん。おばあちゃん。朝ごはんですよぉ。ほら、アンタが将来、介護生活になってもこんな風にね！俺！ごはん作ってあげるね！なんせ、ほら、ボクは良い旦那さんですからね！若いですし！」（いい旦那さんです、のとこのみ日本語）

あぁ、なんということであろうか。

I am no longer eligible. 私はロマンティックBreakfastのできる年ではなくなっていたのだ。Bed in Breakfast, まさかの介護日記！ひどい！

20年ぶりのBed in Breakfastは、ロマンティックの欠片を完全消失し、🍎家にカムバックを果たしたのであった。

（終）