当方、基本的にお菓子作りは管轄外だが、諸々の事情で「製菓材料店」に伺う機会があった。

さすが専門店の品揃え、さりとてわたしが買ったところで豚に真珠、でも手ぶらで帰るのも…、と悩んだ末「そのまま食べられるから」という理由で、製菓用チョコレートを購入した。

夕方、家事をしながらそのタブレット状のチョコレートを2枚ほど口に放り込んだ。
わたしは重度のチョコレート中毒で、特に在宅中はある程度の間隔で身体に取り入れねば禁断症状が出るのだ。

口の中で滑らかに溶けていくタブレットを思わず吐き出しそうになった。広がる苦味、渋味。そしてまとわりついて消えないその味。
なんじゃこりゃ？！
パッケージを見返すと、チョコレートだと思っていたそれは「カカオマス」だった。チョコレート好きなら聞いたことがあろうものだが、こんな味だったのか。チョコレート菓子に深みとコクをプラスするための品で、単体で食べるものではないのだ。想定外の結果にガッカリした。自分の無知っぷりも情けない。

開封した以上は迫り来るバレンタインに向けて活用するか。恨めしい気持ちで冷蔵庫にしまう。

しかし後に、このカカオマスの素晴らしい活用法を考案。わたしが「常備薬」として置いている、名糖の「アルファベットチョコレート」やフルタの「生クリームチョコレート」などのお手頃価格チョコ、そのままでも十分美味しいそれらを口に入れ、間髪入れずカカオマスも投下。すると、なんということでしょう、とろける甘味と苦味のマリアージュ、味にコクと深みが増すではありませんか。

口の中で混ぜりゃおいしい！と大真面目に喜ぶ、小学生レベルの自分が嘆かわしいが、なかなか良いものを手に入れた。経済的チョコが一気にグレードアップ、おすすめです。

それにしても、わたしのようなチョコレート・ジャンキーにとって、この季節はほとんど拷問である。

パティスリー、チェーン店、ファストフードにあげくはファミレスまで、こぞってバレンタイン限定・本気のチョコレートスイーツを売り出す。加えて、百貨店やショッピングモールでのバレンタイン催事！

これだけ食べたいチョコレートがあるのに、その全てを手にすることが出来ない現実に毎年打ちひしがれる。当てつけのようなマスコミの煽りが極めて腹立たしい。

名古屋タカシマヤの「アムールデュショコラ」なんざ、のこのこと丸腰で向かう場所ではない。あれは戦場だ。個人的には「今年も行ったのよわたし、ほんと大変だったわぁ」などと、ほとんどマウント取るためのイベントでしょうよと、悔し紛れに思っている。ただ、あの戦いの土俵に立ったという熱意は評価しよう。

わーわー言っているが、そもそも軍資金不足のわたしは論外だ。戦意はあっても、現場に赴くことすら叶わないなんて。高級チョコなんて夢のまた夢。

まぁ、間違いなくそれは自制に繋がるので良しと思うしかない。情熱だけで突き進むわけには行かないのだ。現実は甘くない。

自分に言い聞かせる。
「胃はひとつ、エンゲル係数は上昇、代謝は下降……」

スマホの画面越しに、魅惑のチョコレートたちをまさに指を咥えて眺める日々だ。わたしレベルのチョコ依存症ならば、見てるだけで幸せであると同時に、苦しさも感じる。

そんな苦悶の時期を乗り越え、ようやく「猫も杓子もチョコレート」シーズンを脱した。この時ばかりは、当日から1日でも過ぎようものなら「あぁそんな事あったね」と平然と手のひらを返す、季節行事に対する妙な日本の風潮を有難く思える。

これで一安心だ。胸をなでおろす。

しかしわたしは知っている。チョコレートの海で溺死寸前のわたしを呼び起こすもの、それは、桜と抹茶の甘く爽やかな香り…。

間髪入れずにやってくる、これらのシーズン。恐ろしいことにわたしはまた、商品パトロールに勤しむこととなるのだ。

だがやはり、
「胃はひとつ、エンゲル係数は上昇、代謝は下降……」

望む全てを手にすることなど、到底叶わない。
くまなく市場調査、商品レビュー等も参考にしつつ吟味した上で、何を食べるか取捨選択。時には断腸の思いで諦めるものもある。そんな苦しさと葛藤の中で思う。

「いっそのこと、嫌いになれたらいいのにね…」

使い古されたラブソングのフレーズまがいの思いを胸に、ひとときの幸せを求め、今日も華やかなピンクや緑のパッケージに目を光らせる。こちとら真剣なんだ。

わたしは一体、何をしているんだろう。