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先に理念ありき コロナ禍のバウハウス展

コロナ禍で取得したお盆休み、東京ステーションギャラリーで開かれていたバウハウスの展示会に足を運んだ。普段頻繁に美術展に行く方でも無いのだが、これだけは見ておかないと、という想いで行ってきた。

・ややマニアック 教育内容にフォーカスした展示

東京駅という、程よい非日常空間にあるギャラリー。事前予約による人数制限もあり、心地よく閲覧することができた。サブタイトルが、造形教育の基礎 というだけあって、マニアックな展示内容で、来館者はほとんどデザイン業界の人か、美大学生か、その界隈の人たちだろうと思う。いわゆるバウハウスの家具やインテリアグッズの展示を期待して来たら、肩すかしをくらうかもしれない。

プロダクト自体の展示もあるが、核となるのは当時の授業で実際に使われていた書面や、授業内容、その意図の解説、生徒たちの作品、スケッチ等で、リアルなバウハウスでの講義風景を想像させるところが面白かった。実際に静物デッサンのモチーフがセットされており、その構図をどう捉えるか?に視点を置いた講義の説明や、各種工房での制作物が、工房ごとにまとまった量で展示されているフロアも圧巻だ。

・手で直接モノを創ることの重要性

一連の展示を通して、改めて正しいのだ、と確信したのは、バウハウスの原則である、「あらゆる造形的創造の基本として、手工の熟達が不可欠である」ということ。

最初からデジタルでモノを作ることが当たり前、それが何か?
という現代において、コンピューターを介さず、自分の手と脳を直結させて物を創る、発想することの重要性について、時々自信が持てなくなる時があったが、やっぱり手で得た感覚を疎かにする理由は見つからない。色の調合ひとつとっても、データ上で色を混ぜたり、諧調を探る行為は、もともと手で絵具を混ぜて感じとる感覚を持ち合わせていないと、それが単なるシミュレーションだということにすら、気がつかない。手でラフスケッチを描かず、(上手下手に関わらず)いきなりイラストレーターやフォトショップの中で何かをこねくり回しても、創造の自由をソフトの性能という限界に縛り付けて、自分のクリエイティビティを衰えさせるだけなのだ。

・ミースの言葉に気づかされる、理念と手段の順序

そんなことを想いながら、鼻息を荒くしつつ展示の最終コーナーに辿り着いた。そこで、バウハウス最後の学長、ミース・ファンデル・ローエの言葉をパネルで読み、しばらく立ち止まってしまう。

「バウハウスは理念だった。
 その理念を学校という形で具現化したからこそ、世界中にこれほどまでの影響を与えたのだ。」

記憶と手元にある書籍を元に書いているので、一言一句正確に同じ言い回しではないと思うが、大意は合っていると思う。
バウハウスは理念・・・!
学校が最初にあって、その学校の理念がある、のではなく、最初に理念があって、それを伝える手段として学校があった。その順番の違いが持つ大きな違いに改めてハッとしてしまい、パネルに数回立ち戻ったくらいだ。

デザインとは何か、造形とは何か、建築とは、芸術とは、それらに対する独自の確固たる考えがあるからこそ、ここまでバウハウスの教えは深く、時代を超越して人々に影響を与えている。独自の確固たる考えを持つことこそ、その後に無限の発展を生み出す偉大な起点に成り得るということに、感動すら覚えてしまう。もちろん、その考えに至るまでの過程は、容易く手にできるものではない。

・それは企業の理念にも言えること

企業の理念も同じではないだろうか。
先に会社があって、その会社の理念を考える、というのは普通の順番だが、広く伝えていきたい、人々を巻き込んで成し遂げたい、という理念が最初にあり、その最適な手段として企業をつくった、というのが最強の順番なのかもしれない。ただ、その順番が成立している企業を、私は多くは知らない。

理念の具現化が果たすべき目的だとしたら、そのための手段選び、そして結果を出す行為が紐づいて存在する。はっきり言って、今の世の中、誰かが出した結果だらけ。事業や商品やサービス、そういう結果は履いて捨てるほど存在する。そうなると目的や手段が重要になってくる。似たような結果を出していたとしても、その過程や起点が異なることが、違いになるのだ。言い換えれば、過程や起点でしか差別化できないのが、資本主義が成熟しきった、21世紀の社会である。

そして、それを人に例えたらどうだろう。
自分は、何か理念を持っているだろうか。その理念を具現化する手段として、何かを選択しているだろうか。生き方や自己プロデュースや、発信方法や、人間関係、仕事選び、などなど。

バウハウス創立100年、奇しくもスペイン風邪の大流行から100年でもあるステイホームイヤー。自宅本棚のバウハウス関連書籍を復習するのに、絶好のタイミングだったりする。

開校100年 きたれ、バウハウス ―造形教育の基礎―
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202006_bauhaus.html
bauhaus100 japan
http://www.bauhaus.ac/bauhaus100/
バウハウス 歴史と理念 美術出版社
(この度復刊した様子。私のバウハウスバイブルです。)
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%90%E3%82%A6%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9%E2%80%95%E2%80%95%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%A8%E7%90%86%E5%BF%B5%E3%80%88%E8%A8%98%E5%BF%B5%E7%89%88%E3%80%89-%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88-%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E5%8F%A2%E6%9B%B8-%E5%88%A9%E5%85%89-%E5%8A%9F/dp/490749016X/ref=pd_lpo_14_t_0/355-5475951-3438308?_encoding=UTF8&pd_rd_i=490749016X&pd_rd_r=8a30d2ed-e2a3-4a03-9a13-51c66b124fd5&pd_rd_w=EJwZb&pd_rd_wg=4PfNc&pf_rd_p=4b55d259-ebf0-4306-905a-7762d1b93740&pf_rd_r=AC0JFEYF9G06E3JKYCY5&psc=1&refRID=AC0JFEYF9G06E3JKYCY5

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