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【NZワーホリ恋愛体験談】④ブレない男の崩れた顔 ブラジルの男

☆これまでのあらすじ☆
29歳でオーストラリアへ1年間のワーホリに出かけ、日本に戻ったのも束の間、30で今度はニュージーランドにワーホリへ。
シーズナルジョブ目当てに辿り着いた北島のヘイスティングスのバッパーでは多くの友人と出会って…

☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。
・バックパッカー: 旅人。バックパックはリュックの意。
・パックハウス: 箱詰め工場。

※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。

***
(本編ここから)

同い年なのにみんなのリーダー格で頼れる存在のレオは、186cmの長身にほどよく筋肉質な体格で、ハッキリとした目鼻立ちのブラジリアン。
常に真顔か不敵な笑みの彼は、堂々とした佇まいで独特の風格があった。

まず驚いたのは彼の荷物の量だ。
大抵のワーホリ、バックパッカーは大きなバックパックを背負って旅をする。
レオは大きなバックパックと大きなスーツケース、もう一つ大きな旅行かばんと一緒に、私のすぐ後に同じバッパーにやって来た。

ラフな格好でも姿勢が良いからか常にシュッとして見え、何足かの靴を日によって履き替えていたことに途中で気がついた。
尋ねたら5足あると言う。どうやったらそんなにいろんな靴(しかも手入れが行き届いてる!)を持って旅することが出来るのか、私には謎だった。

彼は全くブレない。
視線も背筋も考え方も真っすぐ。常に安定して堂々とした人。
酔っても、寝てても、サッカーしてても、彼の得意げな表情と真っすぐな姿勢はいつも変わらない。
弱気な表情だったり背筋を曲げているところを見たことがないのだ。

ほぼ毎日彼は祖国のママに電話していた。
「毎日はすごいよね。」
とみんなでちょっと笑って話していた。

するとレオ、
「当然だろ?いくつになろうと僕のママだもの。
近くに居てあげられないんだから、せめて声を聞かせてあげるのが子供の役目だろ。」

そうやっていつもの堂々とした調子で言うものだから、私たちも思わず納得させられてしまう。
私も電話しとこうかなと、彼の言葉でみんなも少し慌て始めたくらいだ。

バッパーの友人たちみんなでパーティーや何かをしようとなったとき、まず真っ先に彼に相談すれば間違いはない。
生まれつき人間に役割が備わっているとしたら、彼こそがリーダーであるべき人なのだと私は確信している。

だから新しい思い付きがあればまず彼に相談するのは私には至極当然のことと思われ、頼りになる兄のようで私はとても彼に懐いていた。年齢は一緒だけど。


当時そのバッパーに日本人と言えば私くらいで、英語の苦手な私は頑張ってみんなと関わろうとしていた。
それが功を奏したのかバッパー内ではたくさんの友人ができ、私はそこでの生活が楽しくてたまらなかった。

私がみんなの会話について行けていないようなときは、
「みんな待ってくれ。
カナコ、分かってないだろ。」
とレオが会話を止め、
「誰かカナコをパンチしろ。」
と笑いに変えてしまう。

「ひどい!」
と返す私に、
「いいから聞きなさい。今話してたのは…」
といった感じで、彼はまるで面倒見のいいジャイアンだった。
あれ?そしたら私のび太君?

仕事が見つからない間は毎日のように誰かが誘ってくれたりして出かけていた。
レオにも誘われた。
「カナコ、ちょっとこっち来て」

「これから車を持っている奴とビーチに行く。
男だけで行きたくないから、カナコはあと1人か2人誘って来なさい。
言っとくけどガールズだからな。」
誘われたというか、指令を受けた。

とにかく私は彼が大好きだったし、彼も私を可愛がってくれていたと感じている。


しばらくして私は何人かのバッパーの友人たちと一緒に仕事を見つけた。
リンゴの箱詰め工場のナイトシフトだ。

レオは私よりも後にこの地にやって来たくせに、私よりもちょっと早く他のパックハウスのナイトシフトの仕事を見つけていた。
だけど夜は寝たいからとオフィスに直談判して、早々にデイシフトに変えてもらったのだそうだ。
彼は自分の望むように物事を運ぶのがとにかく上手い。


そんな中、私は職場で出会ったアーノルドではない別の人にデートに誘われた。

(※アーノルドの話はコチラ↓)

考えたこともなかったけれど、その人はいつも私を尊重してくれて、英語の分からない私を待ってくれて、嫌ではなかった。

でも二人きりで何を話したら良いのか分からない。
アーノルドにはNoと即答した私だが、その人に対してはどう答えたものかと、バッパーも職場も一緒で仲の良かったコリアンの友人Sに相談した。

「とりあえずデートだけでもしてみたら?」
悩むのが馬鹿らしくなるような、あっけらかんとした調子でSは言った。

「英語のことを気にしてるようだけど、カナコの英語力を分かっててそれでも誘ってくれてるんだろうから。
悪い奴ではないし、心配することはないよ。」

姉後肌のSの言葉に一気に肩の力が抜けた。
そうか。とりあえずデートだけするってのもアリなのか。
お互いを分かり合うため、確かに付き合う前に必要な工程だろうと思われた。

「でもカナコはレオのことが好きなのかと思ってたよ。」

すっかり騙されたと言わんばかりにSは私を見てニヤッと笑った。
それまでレオを恋愛対象として見ていなかった私は驚いた。


正直この頃の私は本当に英会話が出来なくて、だけど周囲に日本人も居なくて、苦しさも感じていた。
世界各国から来ていたバッパーのみんなは母国語でもないのに流ちょうに英語を話していたので、ついて行くのがやっとだった。

「私なんか」
と言うほど卑屈にはなってはいなかったつもりだけど、頭のどこかでそういう思いはあったのだと思う。
会話にならない私など、恋愛対象外だろうと。

だけど周囲のほとんど誰も、分からない私を置いてけぼりにしなかった。
私が意見を言うのを必ず待ってくれていた。
バッパーにおいてはレオの力も大きかったと思っている。


これまで考えてこなかった難問が急に降って湧いたような心地がした。

レオ?
それとも、職場の人?
私は誰を好きなの???

レオから何か言われたわけじゃない。
どちらかを選ばなければいけないわけじゃない。
そもそもどちらも恋愛対象として見たことがなかった。

分からないけれど、Sに言われたようにとりあえず職場の人とデートしてから悩むことにした。

(続く)

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