予防できたはずの5000人の死亡という研究結果 #子宮頸がん予防HPVワクチン

3月4日は、国際HPV啓発デーだった。
みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクトという国際パピローマウイルス学会の公式パートナーでもある日本の団体の活動も、TwitterなどSNSを通して多くリツイートされていた。
日本では年間約1万人の女性が子宮頸がんと診断され、約2900人が死亡しているといわれる。

NHKでもHPVワクチンや子宮頸がんについてのニュースが流れ、時間はかかっても、世間の受け止め方、報道の仕方は少しずつ変化していくのだと実感することができた。

一時は公的に助成金もあり、定期的な予防接種ができていた子宮頸がん予防HPVワクチン。
しかし、色々な要因が重なり、日本では世界と比べて大幅に、かなり遅れており、進んでいない。

日本での子宮頸がん予防HPVワクチンの積極的推奨の中止による影響を調べ、2020年にLancet Public Healthに掲載された研究論文の内容は衝撃的だった。

もしも、あのまま子宮頸がん予防HPVワクチンの接種がすすんでいたら。
積極的に予防接種の推奨が中止されたことで、子宮頸がんにより失われると予測される約5000人の命が、救えた可能性があるという。
そして、約20,000人が子宮頸がんになることを予防できた可能性も。

5000人。なんて大きな数だろう。
その一人一人に、どれほどの家族が、友人が関わっているだろう。

もう少し論文内容をまとめてみる。

日本では2010年より12-16歳の女児に対するHPVワクチン接種が開始され、70%を超える接種率を達成していたが、政府による積極的接種勧奨の中止により、現在では接種率は1%を下回っている。
HPVワクチンの積極的推奨の中止を行わなかった場合に、子宮頸がんへの罹患を防ぐことができたと予想できる患者数と、積極的推奨の中止のために失われたと推定される死亡数を調べたという。

オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、中国などで、子宮頸がん検診とHPVワクチンに関する政策を決定するときに使用する「Policy1-Cervix」という数理モデルで解析していた。

研究結果から分かったこととして、まず
・ HPVワクチンの積極的推奨が中止される前に、すでにHPVワクチンを接種した女性は、接種によって15,000~17,300人の子宮頸がんの罹患と、3,000~3,400人の死亡が予防された。

そして、接種率が低下したことの影響は、
・接種率が1%になった現在とHPVワクチンの接種率が70%に維持された場合と比較すると、1994年から2007年に生まれた女性では、一生涯のうちに24,600人~27,300人が超過罹患し、5,000人~5,700人が超過死亡する、と予測されたという。超過死亡とは予測される死亡者数と比較した場合の増加分の死亡者数のこと。
・このままワクチン接種控えによる危機が続き、接種控え以前の高い接種率が継続された場合と比較し、今後50年間で、合わせて55,000人~63,700人が罹患し、9,300~10,800人が死亡すると予測。
・積極的推奨が再開されず、接種率が現在と変わらず1%未満のままであれば、現在12歳の女性で一生涯のうちに3,400~3,800人が子宮頸がんとなり、700~800人が死亡すると推定。
されるということ。

そして、2020年から2050年の間に、もしくは2020年に速やかにHPVワクチン接種率が回復して、そしてHPVワクチン接種を逸した13-20歳にも接種を50%行った場合には、対してもキャッチアップ接種が行われた場合を多くシミュレーションしている。
・これまでワクチン未接種であった女性も含め、接種率を上昇すれば、積極的勧奨の中止による超過罹患数と死亡数の厄 60%~80%の死亡を防ぐことが可能。
・これからの 50 年間で、13~20 歳の女性の 50%が接種を受けることができれば、80%(46,500~53,000 人)以上の患者の超過罹患と、75~80%(7,100~8,600 人)の超過死亡を防ぐことが可能。
だという。

もちろん、研究結果はひとつの統計解析結果であり、事実がそのままそうとはいえない部分もあると思う。
それでも、本来なら予防できたはずの子宮頸がんの罹患、それによる死亡が、HPVワクチン接種が推奨されなくなったことで、増加する、ということは明らかだ。

自分がなるか、と言われたらわからない。
ワクチンを打っても、罹患するかもしれないし、罹患して治療して治るかもしれない。
でも、罹患して死亡するかもしれない。
それは、自分じゃなくでも、まわりの大事な人かもしれない。

来年の3月4日には日本のHPVワクチンの現状はどうなっているだろうか。
この研究では2020年から積極的接種推奨が進んだ場合のシミュレーションをしている。
もう2021年。

参考文献
Simms KT, Hanley SJB, Smith MA, Keane A, Canfell K. Impact of HPV vaccine hesitancy on cervical cancer in Japan: a modelling study. (日本におけるHPVワクチンの躊躇が子宮頸がんに及ぼす影響)Lancet Public Health 2020; 5(4):e223-e234. doi: 10.1016/S2468-2667(20)30010-4.
YOKOHAMA HPV PROJECT知って欲しいHPVと子宮頸がん予防 最新学術情報 http://kanagawacc.jp/vaccine-jp/323/
PRESS RELEASE 2020/2/18 北海道大学 HPVワクチンの積極的推奨中止で1万人超の死亡と予想~2020年に接種率を70%まで回復できれば、80%の命を救える可能性~200218_pr2.pdf (hokudai.ac.jp)

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