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秘境駅の旅 上

 いつもお読みいただき、ありがたうございます。玉川可奈子です。

 さういへば先日、ついにフォロワーが百名に至りました。一時期は六名程度で細々と超々々零細インフルエンサー(笑)だつたのに、少しだけマシになつたでせうか。また以前よりたくさん、スキもいただけるやうになりました。いつもスキを付けていただいてゐる方々にこの場を借りて御礼申し上げます。

 そして、今回も最後まで読みいただけたら幸甚です。

旅立ちの前

 ひさかたの 雨な降りそね 信濃なる まがなの道の 旅にさやらむ 可奈子

 四月十五日の土曜日、生憎の空模様。朝から雨でした。しかも寒い。
 けふは、久し振りの飯田線、そして飯田線沿線にあるいはゆる秘境駅に停まり、楽しめるといふ急行飯田線秘境駅号に乗りに行きます。
 なほ、飯田線は、長野県の辰野駅から豊橋駅を結ぶローカル線です。

 飯田線は、大学を卒業し、最初に就職した会社を一年で退職してすぐに乗つて以来です(鹿児島旅行の帰りです)。十九年ぶりくらゐでせうか。
 なほ、この上編では、「秘境駅の旅」と題しながらもそこまで行く過程の話しですので、どうかご了承ください。

今回のきつぷ
東京都区内→東京都区内といふ珍妙なきつぷが良いですね

 旅立ちの前日、仕事の後に、八王子の淳ちゃん寿司に行つてゐました。中トロ丼(熊本県産のマグロ)をいただき、なめろうと西京焼で大好きな白州を吞みました。なめろうを初めて食べましたが、中々イケますね。ご飯のお供といふより、酒の肴です。魚だけに。ウィスキーよりお酒の方が合ひさうです。
 なほ、西京焼はアブラボウズで、マスターが、

「脂が多いので、少しだけね」

と言つて出してくれた一品。とてもとても美味しいものでした。一緒に行つた人も、

「美味い!美味い!」

と言つて絶賛してゐました。私は、あまり焼き魚は好まないのですが、これは実に絶品でした。
 マスター、ありがたう。また、行きますね。

淳ちゃん寿司 中トロ丼 2,000円

 「朝から頭が痛い…」

 最近は週末になると疲れが出るのか頭痛がします。偏頭痛です。
 この日常の疲れを引きづりつつ、今朝はタクシーで最寄り駅まで行きました。山手線に乗り、新宿駅を目指してゐたところ、高田馬場駅手前で緊急停止しました。かういふのは本当に困りますが、無事に新宿駅に着きました。余裕をもつて家を出て正解でした。

あずさ1号

あずさ1号

 新宿駅で立ち食ひそば(箱根そばの朝そば、530円)をいただき、食料を仕入れ、特急あずさ1号松本行きに乗りました。

 あずさ1号は七分遅れで新宿駅を出発しました。車内では、これから旅立つおばさん連中がけたたましい声をあげて談笑してゐます。
 曽野綾子といふ作家がある本で「周りに配慮ができなくなつたら老化だ」といふやうなことを書いてましたが、まさにソレを実感します。本人らは非日常の世界に入り楽しいのでせうが、ハタから見たら迷惑極まりない。
 ちなみに、かういふ時に、Air Pods Proはとても便利です。いつも通り、倉木麻衣さんの曲を聴いてゐました。

 ガラガラの総武線を尻目に、列車は八王子方面へと進みます。外は雨。
 立川駅で別の老人集団がゾロゾロと乗つてきて、にはかに五月蝿くなります。頭が痛いので、曲の音量を大きくすると響いてキツい…。
 雨の多摩川を渡つたころで曲が「こちら、幸福安心委員会です。」になつてゐました。
 飲みたくなかつたのですが、ロキソニンを飲みました。

 八王子駅に7:36に着きました。隣の席に黒い服を着た若いお姉さんが座りました。七分遅れで八王子駅を出発しました。松の湯の近くの踏切(裁判所踏切)を、それなりの速度で通過して行きました。松の湯は私の好きな銭湯で上位に入るところです。

 高尾駅を通過してしばらく行くと、景色が山深くなつてきました。木々の上にはもやがかかつてゐて、幻想的です。雨は雨で、風情のある景色が見えるものです。
 しばらくトンネルが続き、7:47、相模湖駅を通過して行きました。少しだけですが、水墨画のやうな相模湖が見えました。都心から一時間もかからないところで、山間の景色を堪能できるのは、中央線の魅力でせう。
 大月駅には8:02到着。このころには、車内は静かになつてゐました。隣のお姉さんは、携帯を見ることもなく、ジツとしてゐます。不思議な人です。

 勝沼ぶどう郷駅を出ると、甲府盆地が車窓左手に見えてきます。これを見るために、座席をD席にしました。晴れてゐれば、遠くの山々までよく見えたでせうが、もやがかかつた景色もまた風流なものです。農園が見えてきますが、まだ果実は何も成つてゐません。

 笛吹川を渡り、列車は甲府駅と順調に走つてゐます。しばらく行くと山梨学院の野球場が見えてきました。そして、甲府城の石垣が見えて、8:31に甲府駅に到着しました。車内放送では四分の遅れとのことです。何人かの乗客が、列車を降りて行きました。いい子にしてゐたおばさん連中がにはかに騒ぎ始めました。人は群れると気が大きくなりがちですが、これもその一例ですね(だから私は群れるのも、女子会とかいふ集まりも嫌ひです)。

 草枕 旅にしあれば むらきもの 心やすけく ありたきものを 可奈子

 さて、韮崎駅を出て、小淵沢駅に8:58到着。五分遅れです。車窓には、目障りな太陽光パネルが見えてきます。隣の人はまだ降りません。

 茅野駅でやつとうるさいおばさん連中が降りて行きました。そして、乗り換へ駅である上諏訪駅には9:17に着きました。
 四分遅れでした。ゆつくりする暇も、ホームにある足湯に入る余裕もなく、ただちに乗り換へます。隣のホームに停車してゐる豊橋駅行きの飯田線です。今回は、この列車で飯田駅まで行きますが、三時間近い長い乗車時間になります。そして、JR東日本からJR東海へと会社が変はります。

あずさ1号

飯田線の旅

313系 上諏訪駅

 飯田線の車両は313系の三両編成で、車内は思つてゐた以上に、空いてゐました。行き違ひ列車が遅れてゐた為、この列車は、五分遅れて上諏訪駅を発車しました。しばらくすると、車窓左手に諏訪湖が見えました。さつきの相模湖といひ、湖は雨との相性が良く、本当に水墨画のやうな景色です。
 下諏訪駅では東京駅行きのあずさ16号とすれ違ひました。中々の乗車率です。想像以上に寒く、温泉に入りたくなります。
 諏訪の温泉は、単純泉でクセのないお湯が特徴です。特徴がないと見せかけて、長く入つてゐると汗がよく出てあたたまります。行きたかつたのですが、今回は我慢です。


 信濃なる 諏訪の海辺の まがな道 もや立つ山を 見るが楽しさ 可奈子

 岡谷駅でしばらく停車しました。辰野駅を出発して、いよいよ飯田線の旅が始まります。雨はそれなりに激しく降つてゐます。車内も人が多くなつてきました。飯田線秘境駅号に乗ると思しき鉄ヲタのやうな人(二人組)も乗つてきました。

313号 車内

 車窓はしばらく住宅地を走りますが、遠くにはもやのかかつた山々が見えます。鉄ヲタ二人組のボソボソ声が耳障りです。
 駅間が短く、走つては止まり、走つては止まりを繰り返してゐるやうです。昭和十八年に四つの会社を合はせてできた路線ゆゑでせうか。飯田線の詳しい歴史などは、Wikipedia等をお読みください。

 伊那松島駅で、中学生くらゐの子が数人乗車してきました。反対側を走る列車を先に行かせました。車内は異様に寒いです。クーラーでも付けてゐるのではないかと思ふくらゐです。車掌には、外の気温や状況を見て空調をどうするか臨機応変に対応して欲しいのですが、せはしなく車内を動きまはるだけでさうした配慮はありません。

 伊那市駅は、どことなくさびれた街の中の小駅。ここで、数名の出入りがありました。
 車窓から住宅が減り、木々が深くなつてきました。時折、木々の合間から咲けるさくらの色を見れば面白きものです。

 山間に 咲けるさくらは けふの雨に な散りまがひそ 見る人のため 可奈子

 列車は宮田駅に列車交換のため、しばらく停車しました。雨は止む気配すらなく降り続けてゐます。上諏訪駅行きの213系と交換し、再び走り出しました。駒ヶ根駅では一名の乗客があつた以外に動きはありません。

 田切駅に向かふ途中、車掌がきつぷの確認にきました。そして、景色も徐々に山深くなつてきました。民家が遠くなり、自然が近くなる。黄色い山吹の花が今をさかりと咲いてゐるのが見えます。

 ところで、山吹といへば、

 山吹の 立ちよそひたる 山清水 汲みに行かめど 道の知らなく(『万葉集』巻第二−)

『万葉集』に収められた高市皇子の御歌を思ひ出します。意味はいまいちよくわかつてゐません。山吹の黄色と、清水の泉で黄泉の国をあらはしてゐるとか、複雑な説がたくさんありますが、私にはシツクリきません。素直に言葉のままに味はへば良いと思ふのですが如何。そして、御歌の響きは深刻な、何ともいへないものがあります。
 私の歌は、まだまだこのレベルに到達してゐません。

 飯島駅でまた住宅地に帰つてくると、前の席にゐたおぢさんが降りて行きました。上片桐駅では、部活帰りの可哀想な高校生が数名乗車してきました。
 ところで、車掌さん。よく観察してゐたら、人が降りる度に、その人のところまで走つて行ききつぷ及び定期券を確認してゐました。大変さうです。

 山吹駅前には、現代短歌と思しき歌碑が建つてゐました。ロキソニンが効いてきたのか、頭痛も治つてきました(できれば、体のためにはかういふ薬は接種したくありませんが…)。

 そろそろ飯田駅です。飯田は焼肉屋がたくさんあることで有名だとか。しかし今回の旅は、焼肉を食べてゐる余裕はありません。

 今回はここまでです。最後までお読みいただき、ありがたうございました。
 次回はいよいよ飯田線秘境駅号に乗ります。

飯田駅

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