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倉山満『検証 内閣法制局の近現代史』(光文社新書)を読んで

 この記事に目をとどめていただき、ありがたうございます。ブックレビューですが、どうか最後までお付き合ひください。

 私は政治にあまり関心がなく、その話題にも疎いのですが(疎いフリをしてゐるだけかも知れませんが)、倉山氏の言論にはいつも学ばせていただいてゐます。中でも、倉山氏の明治維新以降の史論は見るべきものが多く、また戦後の政治についての動きはたくさん勉強させていただいてをります。

 さうした中でも本書は、『検証 財務省の近現代史』、『検証 検察庁の近現代史』に続く三部作の最終編です。

 保守の言論界で、財務省の問題を説く人は稀です。財務省主計局は、倉山氏のいふやうに、最強官庁の一つです。現にその事実を目にしたこともあり、身をもつて理解しました。

 同じ様に、内閣法制局の問題についても説く人はゐません。財務省や内閣法制局を知らず、代議士の言動のみを批判するのは簡単です。しかし、それでは本当の敵を批判したことにはなりません。本当の敵とは何なのか。本書を含めた三部作はそれを知らしめた傑作でありませう。


 内閣法制局の姿勢を倉山氏はわかりやすく記してゐます。

 「歴代長官ごとに解釈が変遷してきた内閣法制局の憲法解釈も、安定してきました。すなわち、『日本は永遠に敗戦国のままでいる。二度と大国には戻らない』。
 初代長官の後半と第二代林長官は、なんとか憲法九条を骨抜きにして日本をマトモな国にしようとしましたが、第三代高辻長官がすべてをひっくり返し『一国平和主義』を完成。第四代吉國長官の頃には定着、その後の歴代長官も『内閣法制局の一貫した憲法解釈』から逸脱しないように腐心します。高辻以降に一貫した、ですが。」

 林修三の努力は、読んでゐて感嘆します。もし、このまま行けば、と期待すらしてしまふでせう。しかし、高辻正己以降の憲法解釈は自衛隊を縛り付けるものであつて、「マトモ」な国と対局を為すものです。それが、現代に引き継がれてゐるのです。さらに、吉國は「天皇をロボット」にし、真田秀夫はさらにその「毒で皇室をがんじがらめに」したといひます。

 そして、私が注目したのは次の点です。
 記憶にある方もをられるでせう。令和改元にあたり、「絶対に許されない」元号の事前公表が行はれました。この事前公表を倉山氏は、法制局が皇室を貶めたこととしました。そして、「令和という元号は、『生前退位をやらかしたからお前の息子は未来永劫皇太子のままだぞ』という呪い」と言ひます。
 この点に関して、正直、私は何ともいへません。倉山氏の筆が走り過ぎたかも知れませんし、倉山氏の言ふ通りである可能性も否定できません。令和を考へ付いた中西進氏が国体に昏いことは承知してゐますし、内閣法制局がそこまで悪意を働かせるのかどうか。
 しかしながら、靖国神社の御親拝などを含め、内閣法制局が皇室にまで及ぼした「毒」を私は憤りをもつて読みました。

 本書のあとがきでは次のやうに記してゐます。

 「革新(リベラル)が狂った要求を突きつける。法制局長官が盾になり、内閣を庇う。自民党は法制局を味方だと頼りにする。しかし、気付かぬうちに「毒」を混ぜられている。
 その結果、皇室は貶められてきた。また、政局が混沌とした時、法制局は人知れず力を発揮してきた。
 内閣法制局は、長官が絶対である。その国会答弁は「有権解釈」と言って、効力を持つ。」

 自民党に対して訳のわからないことをいふ野党、そこで内閣法制局に助けを求める自民党。宮沢俊義の憲法論で育つた彼らが、「毒」を注入しました。本書には、内閣法制局の「毒」がいかなるものか、これでもかと記されてゐます。
 多くの人に、本書を読んでいただき、最強の官庁ともいふべき内閣法制局の実態と、その前にはいかなる政治家も太刀打ちできない現実を知つてほしいものです。それは一般の国民のみならず、言論の活動に従事される方々や公務員。さらには与野党を問はず国会議員の方にも読んでほしい、さう思ひました。
 最後までお読みいただき、ありがたうございました。わが国が少しでも「マトモ」な国に近づくためにも、本書を推薦します。

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