20190510 甘い

地団駄を踏んで躑躅を甘くする

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女の子が、わたしの首に腕を回して、ぎゅっ、と後ろから抱きついてきた。いつものわたしなら、そういうことは受け入れずに、それとなく離すようにしている。

みんなはもう小学生で、必要以上に密着するコミュニケーションとは別の方法も、覚えていったほうがいいと思っている。それに何より、わたし自身がちょっと戸惑いを感じてしまうから、できるだけ離れる。ひとがひとと接するときに感じる違和感というのはあって、そういうことを感じたら素直に対処したほうがいいと、わたしは思う。

でも、今日は彼女の行動を受け入れた。それは、彼女のそれに、切実さを感じたからだった。どうしても何かを求めたくてのそういうことは、できる限り受け入れたいとも、思っている。

「先生、甘い匂いするね」彼女はわたしの首筋の匂いを嗅いだ。わたしは、彼女の肌の柔らかさが心地いいなあと感じた。あと、ああへんな匂いがしなくてよかったなあ、と安心した。「そうかなあ」なんて、わたしはぼんやりした言葉を返す。

わたしにはこどもがいない。お母さんになったことがない。だから知らなかったのだけれど、わたしの身体も、こどもを安心させることができるのだなあ、ということを知って、ちょっと嬉しくなった。


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