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11月6日は「アパート記念日」

ぼくの住むアパートの2階に住むムラカミさんの飼っているペットのモモちゃんはメスだ。
急に何のはなしをするんだとお思いの方がほとんどだとは思うが、とにかくモモちゃんは我がアパートのアイドルでみんなに愛されている。

モモちゃんは大変に大きい。メスなのにあの大きさは珍しいのではないかと思う。恐らくぼくが見たことがある中で一番大きいのではと密かに思っている。以前飼い主のムラカミさんに聞いてみたことがある。
「モモちゃんって大きいほうですよね?」
ムラカミさんはモモちゃんをなでなでしながら「うーん、普通くらいじゃない」と言った。モモちゃんは普通サイズらしい。

そんなアパートのアイドル、モモちゃんはつぶらな瞳、そしてふさふさの体とアイドルの必須条件をすべて満たしている。1階のササキさんなんてモモちゃんの散歩の時間を狙って、外にでるモモちゃんの写真を撮影し、その写真を見ながら絵を描いているそうだ。ササキさんの職業は画家だ。ササキさんの最近の口癖は「モモちゃんまた大きくなったんじゃないの」だ。しばらく会わなかった親戚のおばさんが法事で久しぶりの再会の時のような口癖をぼくは気に入っている。

1か月ほど前、モモちゃんはアパートを一時的に去り、生まれ育った町に里帰りすることになった。出発する前日にはアパートの敷地の庭とも呼べないような中途半端なスペースで、モモちゃんの壮行会が行われた。
モモちゃんを愛するアパートの住民が集まり、楽しい時間を過ごした。やはりモモちゃんはいつ見ても素敵だ。ササキさんはいつも以上に興奮し、ムラカミさんはモモちゃんのどのあたりが愛らしいか語っていた。そんな素敵な会だった。

最近になり戻ってきたモモちゃんに事件が起こる。なんと生まれ育った町でさらに大きくなり、飼い主のムラカミさんの部屋に入らなくなってしまった。それを聞いたムラカミさんの下の階、つまりはぼくの隣の部屋のワダさんは「私の部屋の天井を壊せばムラカミさんの部屋と繋がって、広くなりモモちゃんも入れますよ」とリフォームの匠も驚きのアイデアを提案し、自分は空き部屋のその隣の部屋へと引っ越した。

こうしてムラカミさんとモモちゃんは天井が異様に高くなったぼくの部屋の隣に住んでいる。モモちゃんがもっと大きくなったら今度は屋根を壊そうとアパートの住人たちは話している。

11月6日は「アパート記念日」

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