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9月22日は「世界サイの日」

「……」

「先輩、お誕生日おめでとうございます! あの……これ、プレゼントです。受け取ってください」

僕が受け取ったプレゼントの箱からは明らかに何かが突き出ていた。その先端はまぁまぁ鋭くて、誰かの死因にもなりそうなほど、ほどほどに尖っていた。

後輩の彼女の両手から勢いよく差し出されたプレゼントの箱は、それなりの彼女の思いと共に、勢いよく差し出されたこともあり、さらには飛び出ている何かに気を取られて、つい受け取ってしまった。すでに僕の手の中にある箱は思ったよりも重かった。

箱は青色を基調とした柄で、そこから飛び出た鋭い何かは教科書で見た縄文時代とかの石で作られた狩の道具のようだ。

「ありがとう?」

恥ずかしそうにしていた後輩は「あれ、なんでありがとうの最後が ? なんですか。そこはありがとう。うれしいよ。で大丈夫ですよ」と言った。

「それよりさ、この箱から何かが突き出ているんだけども、これはなんだい?」

「やだ、先輩気が付きました? それはですね……」

家までの帰り、今までの人生の中で恐らく一番持っていたくない箱を持っているということが心の重荷だ。いったいこの箱はどうすればいいんだろう。

彼女は言った。

「サイの角です。なんか漢方とかにして飲んでもいいらしいですよ」

「えーっと、サイって絶滅危惧種だから、角ってとれないんじゃ……」

「その点はご安心ください。決して密輸とかではないですから、それは祖父の骨とう品の角です。安心安全です」

最近はなんでも安心安全と言えば済むと思っているふしがあることに気が付いた。

サイの角をプレゼントにもらった18歳の男子は、どうすればいいのかということをすぐにググってみたが、検索結果は0件だった。つまりは、世界ではじめてサイの角をもらった18歳男子になるということか。うーん、なんだろうこのとんでもない嬉しくなさは。

「大事にしてくださいね。あ、漢方にするのもいいですけど、ちょっとだけにしてくださいね」

うーん、絶対にしないよ? 嫌だよ、サイの角を漢方にして飲むなんて。それよりどうしよう、まさかその辺のゴミ箱にサイの角を捨てるわけにいかないしな。

ごみ収集の人もびっくりするよね。サイの角が捨ててあったら。ニュースになったら後輩にバレちゃうし。

そして家に着き、自分の部屋まで行き、はじめて箱を開け、サイの角の全体とご対面した。でかい、とてもでかい。立派な大変に立派なサイの角だった。

仕方がないので居間のテレビ台の横に飾っておくことにした。中国の富裕層みたいな家に一瞬でなった。

9月22日は「世界サイの日」

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