ポケットから出てきたのはスマホではなく、卵だった。その卵は見た目では生卵なのかそれともゆで卵なのか、判別できない。これが卵の困った点で、例えば生卵は卵の色の白そのままで、茹でると色が変わったり草間彌生の作品みたいにドットがたくさんついたり判別できるようになってくれるとありがたい。

その手にある卵を見ながら考えるもやはり判別は難しい。普通に考えたら生卵をポケットに入れておくのはリスクが高い。なんせポケットなどという中東情勢くらい安定しないスポットに、薄い皮一枚の生の卵を入れるのだ。ポケットの中で万が一割れてしまった場合は、百万分の一くらいの確率ではかわいいヒヨコが生まれるかもしれないが、ほとんどの場合はあれ？　あの人右のポケットだけなんだか湿っていて、よく見ると黄色いという状態になってしまう。
では、ゆで卵だった場合はどうか。これは例えばポケットに入れたゆで卵が何かに当たったとする。すると少し卵にひびが入り、食べようとした時に殻をむきやすい。これはなかなかいいぞ、それにタンパク質も豊富だし、生卵を食べる？　飲む？　場合よりも満腹感があるはずだ。

しかしあぁ、あなたの持っている卵は生卵でもゆで卵でもきっと良い卵なのでしょう。卵を片手に持っているだけでパリコレの出番を待っているモデルのように洗練されているように見えます。完璧な体形のモデルさんが完璧にデザインされた服を着るのと同じように、完璧な卵を持つのに相応しい人が、完璧な、いい卵を持っているのだから。

少し首を傾けて、卵を持った人は、卵を持ったまま人混みの中へ消えていきました。もう、生卵でもゆで卵でもどちらでも良しとする。

11月5日は「いいたまごの日」