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7月24日は「劇画の日」

整形したことに気が付いても、それを言っちゃ野暮だよ。間違っても「もしかして、整形したの?」なんて聞いたらダメだよ。
大学の先輩と昔、下北沢の居酒屋で飲んでいるときに言われた事を思い出した。

どう考えても以前に会った時よりも彼は顔全体の彫りが深くなり、いわゆる男前になっている気がする。テルマエ・ロマエ風になっている気がする。
そして、話し方や態度もどことなく以前よりも自信があるように感じた。

あまりにも顔ばかりジロジロと見ていたので、

「気が付いたかい?」とそのテルマエ・ロマエ顔で彼は言った。

僕は先輩に言われた事が頭の中でグルグルとループして、彼の言葉に何て答えていいか分からずに、とりあえずビールを口に運ぶ作戦に出た。

あぁ、やめてくれ。そんな自信満々な顔でこっちを見ないで。分かった、いいよお風呂に入りたいなら入っていいから。

「整形したと思っているんだろ?」ストレートに彼は言った。

本人から直接言われたなら仕方がない。僕も決心して彼に聞いてみた。

「本当に……その整形したのかい?」

言葉にすると、なんとも僕の言葉はおまぬけだった。

「整形とは少し違うんだ」

もったいぶるように、彼も一口ビールを飲んだ。そのビールを持ちグラスを口にあて、喉仏を通ってビールが胃まで流れていく様子を僕は彼の顔から少しも目をそらさずに、瞬きもしないで見ていた。
その姿は西洋の美術館に置いてある彫刻が、月曜日の閉館の日にビールを飲んでいるのをたまたま目撃してしまったかのような、なんともいけないものを見てしまった気がした。

そんな自分だけがいけないものを見てしまったのを紛らわすためさらに質問をした。

「整形ではないとは? どういうこと?」

「ふふ、これはね……」

その時、テーブルの上に置いてあった彼のスマホが光った。

「おっと、電話だ。失礼」

そう言うと彼はさっと席を立ち、店の外に出ていった。

席を離れる瞬間、財布から器用に名刺サイズの何かをテーブルに置いた。彼の口は「これ」と言っているように見えた。

その名刺サイズのカードには

劇画師  堀越 メグミ

とだけ印刷されていて、その印刷はどうやら活版印刷のようだった。

住所や電話番号、メールアドレスなどは一切書かれてなく、はじめて見る、劇画師という印刷の言葉をじっと見つめた。

げきがし?

と読むのだろうか。

彼が戻ってきたら、読み方から聞かなくてはならない。

7月24日は「劇画の日」

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