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11月3日は「レコードの日」

「まずはかき混ぜるの」そう言った人はスプーンをコーヒーに入れた。スプーンはプールに入る前の準備体操を入念に行った小3児童のように完璧な状態で、きちんと水泳帽をかぶり、手首足首をきちんとほぐしていた。
完璧な状態で入水したのち、流れるプールを作るためスプーンは時計方向へとただひたすらに動いた。一瞬時計方向が分からなくなったが、プールサイドの大きな時計をそっと盗み見た。そのうち自然にプールの中に時計方向の渦が出来、体を任せて流された。

無言でひたすらにコーヒーを混ぜていたここ。という瞬間、そうここ。のタイミングで、「ミルクを入れます」と言い、コーヒーミルクを開けようとした。あの小さなコーヒーミルクのプラスチックの中に、いったいどれほどのミルクが入っているのか。牛の一日の牛乳はあのコーヒーミルク何個分なのだろうか。ただのミルクを大げさにプラスチックに詰め込んだコーヒーミルクを彼女は上手く開けることができないようで、少し手がプルプルしていた。力任せにすればコーヒーミルクはこぼれてしまう可能性がある。それじゃなくても少ないミルクだ。気を付けなければならない。プルプルを続けながら少しずつフタがあき、少し威力が衰えた流れるプールの中にコーヒーミルクは投入された。

入れた瞬間は真ん中で、もやっと固まっていたが、スプーンが頑張って作った流れに乗って、少しずつ広がって行った。数秒後にはちょうどまん丸になり、喫茶店の聞いたことがない洒落た音楽に相まって、コーヒーミルクはレコードのようだった。くるくる回り回った。
そういえばレコードは黒だということを、彼女の地元の先輩が結婚したという話を聞きながら思った。僕はレコードの本物を一度も見たことがない。

11月3日は「レコードの日」


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