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ショートショート:「俺は、魔王。」



【前書き】

皆様、お久しぶりです。
カナモノです。

何だか初心に帰りたくて、想いのままに書いてみました。

少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。


【俺は、魔王。】

作:カナモノユウキ


《登場人物》
・ヨウ(33)刑事。
・リクオ(33)魔王。

再会した時、アイツは確かに…〝魔王〟だった。


―――「フハハハハハ!よく来たな勇者!」
「魔王……俺は、お前を止める。」
「何をほざく勇者!お前たちがしたことを忘れたとは言わせないぞ!俺…魔族に嫉妬し!愚弄し!追いやった!お前らの方こそ悪なのだ!そして勇者!お前の首をここで頂き人間に晒してやる!更なる皆殺しのはじまりにな!」
「そんなことはさせない。お前は、俺がここで止めるからな…。」

今、アイツには俺が〝勇者〟に見えてるのか。こんな俺が…。
背広にコート、よれたワイシャツに、そこのすり減った革靴で無精ひげの男を…。

「さぁ!これが最後の戦いだぁ!…これで、これでようやく!俺は世界の魔王として君臨できるよママ!はぁ、はぁ。最初は俺の魔力で地下鉄を破壊してからだったなぁ!我が軍を使いあらゆる場所を破壊し続けた。多くの人間が死に、多くの人間が今も尚苦しんでいる!あぁ…聞こえる、聞こえるぞ!人間の悲痛な叫びが!でも、まだ足りない…まだ足りないんだよ。こんなもんじゃない、我々の苦しみは、俺の憤怒はなぁ!魔族はこんなもんじゃ満足しないんだ、こんなところで止まれないんだ!まだ満足しないんだ!日本だけじゃない、これからは世界を手に入れる!その為の進撃を!だが、最後の邪魔がノコノコとやって来た。我々魔王軍は、お前たちを倒して!世界への侵略を開始する!まずはお前からだ!勇者ぁ!さぁ、剣を持て!構えろ!勇者は魔王を殺してなんぼだろうが!魔王は勇者を殺してなんぼだろうが!さぁ!さぁ!さぁ!準備はいいか勇者よ!最初であり最後の殺し合いだぞ!あぁ…ママ、俺たちの復讐が叶うまでもう直ぐだよママ…、奴らは…必ず駆逐されるんだママァ!」

「…ママか、もういないって言うのに。」
「おい、勇者…今ママを侮辱したか?」
「侮辱?違うな、これは…ただの真実だ。お前のママは、もういない。」
「嘘だ!嘘だ!嘘だぁ!俺のママは生きてい居る!ふざけたことを抜かすなよ勇者…俺のママが死んでるなんて…。」
「分かってんだろ?そろそろ…現実を見ろよ。」
「うるさぁーーーーーーーーい!僕の力で、お前をぶち殺してやる!行くぞ勇者ぁー!」

相変わらず、怒ると〝僕〟って言うんだな。小さい頃と何も変わらない…変わらないはずなのにな。
どうして、そうなっちまったんだよ…リクオ。
血走った眼をぎらつかせて、飾りの〝剣〟なんか振り回して来るんじゃねーよ。
…蚊も殺せなさそうなぐらい、ボロボロのくせに…立ち上がって。


「どうした勇者!戦うために来たのではないのか!」
「…そうだな、戦う為…いや。お前を、救うために来たんだよ。」
「救う!?何を世迷言を!なら!そのお前が持っている〝剣〟は何だと言うのだ!?はぁーーーーー!」

お前には、この拳銃が剣に見えんのか。…本当に、おかしくなったのかよ?…なぁ、リクオ。

「この魔王を、俺を撃ち殺してみろよ!クソ勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーー!」
今…「あぁ、そうするよ。」

突き出した拳銃の先、撃ちだされた弾丸はリクオの胸を真っ直ぐ貫き、アイツはその場に倒れた…。



―――「ふぅーふぅー、ふぅーふぅー…クソ…俺の、人間への復讐が…ここで終わるなんてぇ…。」
「そんなこと、もう考えてなかったんだろう。…リクオ。」
「何を言ってるんだか分らんな…、人間風情に…俺の崇高な目的は理解できんか…あぁクソ!クソ!クソ!」



―――若くして、ゲームデザイナーとして成功したお前は数々の賞を受賞し、25歳で富と名声を得た天才だ。
その地位と名誉を疎ましいと思った輩から蔑まれ、偽のゴシップ記事や根も葉もない炎上がお前たち家族を襲った。
実際、何があったかは知らない…だが表立った事実はそうだった。
俺は警察官として、親友がそんな目にあっているのを…傍観することしか出来ずにいたときだったな…。

「お…俺は、魔王。これから、お前たちに…復讐をする。」

ユーチューブでそう言い放ったコスプレをした親友の動画は、本人と思われるテロ行為で注目を集め加速する。
地下鉄の電子機器を破壊し、多くの人の命を奪ったんだ。…最初は、悪い冗談だと思いたかった。


「俺はこの世界を滅ぼす魔王、誰も俺を止めることなんて…出来ない。」

次々と行われたテロ行為。ビルや飛行機の爆破予告は次々に成功、更にハッキング攻撃で企業を攻撃し続けた。
その全てを利用して雲隠れを繰り返し、〝魔王〟はその知名度を上げては逃げ続けて行った。
刑事である俺は必死にリクオを追ったが…その過程でアイツが母親を殺されたことを知った。
そして浮かび上がる、アイツはテロリストたちに利用されていると言う事実。

「ヌハハハハハハ!人間よ!震えろ!我が魔王軍の快進撃だ!震えろ!泣き叫べ!俺の苦しみを知れ!」

動画は、どんどんとおかしくなっていくアイツを見せつけていく。
青く塗られた気色の悪い顔、コスプレグッズで着飾られる隙間から覗く腕の関節は、痛々しい注射痕にまみれていた。
恐らくリクオは、ただ矢面に立たされているだけのピエロ。
裏でアイツは、逆らえない様に薬づけにされ、監禁されている…早く助けないと…。



―――そして、再会したのに…。


「はぁ…はぁ…、最初は…本当に復讐するつもりで。地下鉄を暴走させた。そのあとすぐ、組織が来た。」
「リクオ!?お前、意識が。」
「組織が…俺を利用しようとした時、怖かったけどさ…それ以上に…ママが殺されて、こいつらに復讐しないとって。」
「もういい!喋るな…分かっているから。」
「だから、従うふりをして…動画で…はぁ…はぁ…ヒントを出し続けた…。」
「分かったよ、お前のヒント…だから俺はここに来れた。組織の奴らも、全員捕まえた…。」

「なぁ…ヨウ、俺は魔王だったか?」

「リクオ、何言ってんだよ。」

「…俺は…魔王だった?」

「お前は…。」

「なぁ、応えてくれ。魔王だったか?」

「…ああ、お前は…魔王だったよ。お前をあざ笑う人間なんて居ない程…魔王だったよ。」

「フフ…俺は、魔王。…俺は、魔王なん…。」


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

なるべく短く、そしてドラマを。
結局つたない文書なので、書いても書いても正解が分からない。

でも、もしも楽しんで貰えるのなら。
もっと頑張りたい。

もっとちゃんと書けるようになりたい。
そういう想いは、まだ消えていないことかこれで分かった気がする。

ありがとう、魔王。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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