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苦い想い出はベネチアングラス

1995年3月。

わたしがちょうど二十歳の時。

初めて海外旅行をした。

成人式の着物を借りる代わりに行かせて欲しい。

そう祖父母と両親に頼み込んで実現した。

ロンドン・ローマ・パリ周遊の旅。


2番目に訪れた街ローマで、ベネチアングラスに目を惹かれた。

訪れたのはベネチアではないけれど、わたしにとっては異国の雰囲気を感じる物だった。

ガラスの色は紫色なのだが、蛍光灯に当てると水色に変わる不思議なベネチアングラスが気に入った。

「お土産に買おう」

祖母には小さな1輪挿し、母には9cmほどの小さな灰皿を買った。

「灰皿」としてではなく、「小物入れ」としてかわいいと思って買った。

学生のわたしにはそれくらいが精一杯だったのだ。


帰国後、母にお土産を渡した。

「ママがタバコ吸うからって、バカにしてんの!!」

と、突っ返された。

わたしの母は、タバコを吸うことを周囲に隠し、こっそり吸っている。

だからといって、否定したりバカにしたりしたことはなかった。

そんなつもりなかったのに。。。

悲しかった。

その時ついた心の傷は忘れない。


落ち込んだけれど、気持ちを切り替えた。

その「灰皿」は「アクセサリー入れ」として大事に使った。

独身時代ずっと。

結婚後引っ越しの際、実家の荷物を箱に詰めて持ってきた。

その箱は開けないまま10年以上放置していた。

長い間、その存在を忘れていた。


ある日、良い感じの石鹸置きを洗面台に置きたくなった。

そう思った時に、ふと、その「灰皿」のことを思い出した。

開かずの箱を開けた。

「あった!」

懐かしい想い出が蘇った。

心の奥底に仕舞っておいた苦い想い出と一緒に。

だけど、ずっと変わらないその美しさに心が躍った。

洗面台が華やかになった。


再び役目を担っているベネチアングラス


もしかしたら、わたしが無遠慮に「灰皿」をあげたことで母が傷ついたのかもしれない。

そこに、今やっと、気がついた。

言葉にしろ、贈り物にしろ。

自分の気持ちだけではなく、相手の気持ちも慮る。

「想像力」

それが大事なのだと思う。


知らないうちに相手のことを傷つけてしまうことは誰にでもある。

わたしも誰かを傷つけてきたと思う。

そんなつもりはなくても、無意識に傷つけるような言葉を子どもに発してるかもしれない。

「想像力」

ブレイディみかこ氏の言葉を借りるならば

「他者の靴を履く」

これを忘れずに生きる努力をしようと思う。


そして、世界が優しい心で満ちあふれるといいな。


未来のために。

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