和訳のストラテジー #3 『若草物語』最終回

“I like his manners, and he looks like a little gentleman, so I’ve no objection to your knowing him, if a proper opportunity comes. He brought the flowers himself, and I should have asked him in, if I had been sure what was going on upstairs. He looked so wistful as he went away, hearing the frolic and evidently having none of his own.”

Little Women by Louisa May Alcott

さて、三回にわたって読んできた『若草物語』も今回でラストにしようかと思います。もっと読みたいって方は自力で読んでみてください。ぜひ英語で読んでいただきたいところですが(Project Gutenbergにあります)、邦訳版でもいいでしょう(笑)。このコーナーではやはり、ほかの作品も触れないとつまらないですよね。なので次回からは新しい作品を。どの作品を選んだかは最後のお楽しみですよ!では今回も張り切っていきましょう!!今回は大テーマがあるので、先にそちらを示して解説してしまいます。少し長いので、お時間に余裕をもってお読みいただけると嬉しいです!時間ないよって方は大テーマの最初の二つだけ読んで、後で部分解説を読むなど工夫していただけるとよいかと。

大テーマ:「仮定法」ってどう考えればいい??

ということで、ネタバレですが前回出したクイズの答えは「仮定法」でした。勉強が進んでいると、「なんだ、あの時制がずれるやつでしょ」とか「覚えることが多いしよくわかんなくてめんどくさいやつ」とか思うかもしれません。仮定法は理解が大変ですよね。少なくとも、ifにこだわったり丸暗記をしたりはしないでほしいんです。今回はそんな仮定法をちょっと視点を変えて文法用語から攻めて解説してみます。ちょっとでもおもしろい!と思っていただけたら理解が深まるかなと思います。

そもそも「法」ってなんだ?

文法用語における「法」は英語で”mood”と言います。Wikipediaによると、これはフランス語の”mode”(方式)から来ていて、「述べ方」というのが本来の意味には近いようです。ただ、ゲルマン語派由来の「気持ち」という意味の”mood”と意味が混ざって、今では「述べたことに対する話者の態度」っていうのが「法」の意味のようですね。難しい......

「仮定法」を極めてみる

そして、「仮定法」は"subjunctive mood"です。"subjunctive"に対する訳がそもそも「仮定法の」なので、このままだと「仮定法」ってどういう概念なんだ?となると思います(というか、私がそうなりました)。これまたWikipediaによると、"subjunctive"はインドヨーロッパ語族の言葉に共通する概念で、「接続法」というものだそうです。主節に接続する従属節を必ず有するからでしょうね。その中にさまざまな意味があって、仮定法はその中の一種ととらえられるかもしれませんね。対になるものが「直説法」で、こっちのほうが皆さんにはメジャーでしょう。直説法は事実を直接的に説明するものなので、仮定法はその逆、すなわち「本当は違うけど、もしこうだったらこうだよね!」ということを喋ってるよと表している話者の態度と言えるでしょう。ちなみにこの話者の態度、気持ちを表すものが助動詞の過去形です。普通の時制なら直接法なのです。そこをあえて過去、助動詞と遠ざけることでその雰囲気を作っています。
少し遠回りしてしまった感じが否めませんが、このように考えればよいでしょう。今回はWikipediaから借りてきちゃいましたが、まあこのくらいの理解でいいと思います。私ももっと研究して説明できるようになりたいものです。せっかく文献をたくさん探れるところにいるので、大学で精進して参ります。

さらに、少し参考になりそうな記事を見つけましたのでお読みいただけたらいいかと思われます。


結局、仮定法はどう訳せばいいの?

和訳のストラテジーらしく、ここははっきりさせておきましょう。
古典に「反実仮想」というものがあります。それと同様に考えたらいい、と言えばよいでしょうか。(しかし実はそれだけではなくて、一部の例外として「現実にありうるかもしれない」という意味合いを含むものもあります。それはおいおいできるといいですね。とりあえずは原則を抑えましょう。)
古文の反実仮想は、「・・・(未然形)+ば、~まし」ですね。「・・・ならば、~なのになぁ(実際はそうでない)」という意味になります。
では、英語の仮定法ではどうなるでしょうか。ひとつひとつ紹介しながら訳もご紹介します。()がしてあるのは、副詞節(≒従属節)であることを示しています。下の①の文が基本形です。

  1. (If S' 過去形 ・・・), S 助動詞の過去形 動詞の原形 ~ .
    意味は古文の反実仮想と同じです。 この基本形のことを、if節の時制から取って「仮定法過去」なんて呼んでいるだけなのですね。助動詞の過去形というのがポイントですよ。この基本形からすべてが派生されます。

  2. (If S' had p.p.(過去分詞) ・・・), S 助動詞の過去形 have p.p. ~ . 
    となると、「・・・だったならば、~だったのになぁ(過去においてそうでなかった、そしてそうすればよかった)」となります。仮定法で後悔を表すことがあるよ、と習ったことがある人もいらっしゃるでしょう。こういうことです。つまり、実際になかったことを思うわけですから、自分の行いであれば後悔につながるわけです。これもif節の時制から「仮定法過去完了」と呼ばれています。

  3. I wish S 助動詞の過去形 動詞の原形 ~ . 
    「~ならいいのになぁ(そうならない)」という意味になります。太字にしたところが対応部分ととらえると理解が早いかもしれません。I wish とあるように、基本形である①の主節部分を自分の気持ちとして「私はこう願うんだけど……」と主観的に述べるイメージです。

  4. I wish S 助動詞の過去形 have p.p. ~ . 
    「~だったならいいのになぁ」です。③と同じなので説明は割愛します。

  5. Would that S 助動詞の過去形 動詞の原形 ~ . 
    ③と訳は同じになります。
    Wouldは動詞willの過去形。動詞willは「願う、望む」という意。過去形になっているのは仮定法の時制ずれ。そしてその目的語としてthat節をとっている。仮定条件節と主語の省略でしょう。つまり直訳すれば「that節以下を願うのになぁ!(それも叶わない)」くらいですかね。無理にかたくせず、「~のになあ」と仮定法全開で訳出するのがいいと思います。和訳問題はかっこいい文を書くことではなく、文法わかってるアピールが大事です!!

  6. If only S 助動詞の過去形 動詞の原形 ~ . 

    ③や⑤と訳は同じになります。⑤よりこれのほうが入試でよく出るので有名かもしれませんね。

先ほど書いた「例外」のやつも資料として載せておきましょう。でもこれも基本形の派生でしかありません。ただ、少しめんどいので暗記になるのが残念なところ。今は読み飛ばしてかまいません。
(If S' should 動詞の原形 ・・・), S 助動詞の過去形 動詞の原形 ~ .(または命令文)
これは「万が一・・・なら、~しなさい」となります。命令文が来るのもこれが理由ですね。「万が一」というところがミソで、今は起きてないけど、ありえないと信じているけど、もしそうなっちゃったら……と考えているときのことです。なので、これは「仮定法未来」と呼ばれています。ちなみに「仮定法現在」というと、また別のものになります。それはまたいつか。(ネットで調べていただいてもよいかと)

(If S' were to 動詞の原形 ・・・), S 助動詞の過去形 動詞の原形 ~ .
これも「仮定法未来」のひとつです。「もし・・・なら、~だろう」となります。

当たり前ですが、ここに書いたほとんどのことが文法書には必ず載っています。要復習ですね。これを単に暗記するのは無理があるので、こういった考え方を理解したうえで理由付けをしながら覚えていくのがいいでしょう。

では、本題に入りましょう。

部分解説

”I like his manners, and he looks like a little gentleman,

ここは特に解説することがないですね。likeが動詞と前置詞どちらでも使われていて上手い(面白い)文だな、と思うくらいでしょうか。あと、littleは否定語で「ほとんど~ない」ですが、a littleは肯定の意味で「少しある」という感じです。fewとの違いは可算(few)か不可算(little)かだけですね。
訳は、「彼の行儀良さも好ましいし、ちょっと紳士っぽく見える」
としましょう。続きとの兼ね合いでこんな感じでいいかなというところ。あとは会話であることも考慮に入れています。

so I’ve no objection to your knowing him, if a proper opportunity comes.

ifで「あっ!」って思った方、残念。これがあるから先に大テーマで仮定法を語ったのです。実は伏線はここだったんですね。I'veはI have の略ですから、普通の現在時制。よって直接法です。あと、I have no objection to your knowing himですが、文脈からしてこれは男女の仲(といってもお友達な気がしますが)の話なんですよ。でもまた解説入れ忘れたのでしょうがないかな。「あなたが彼と仲良くなっても反対しないよ」みたいな感じですかね。
"objection"が"no"で"have"というのも名詞構文と取れます。"do not object" とほぼ同義です。
訳は「だから、きちんとした機会があるんだったらあなたが彼と仲良くなっても反対しないよ」とします。
反対しない、と書きましたが、仲良くしてもいいんじゃない?くらいのニュアンスだと思います。娘たちが彼に対して気になっているところなので、こういう感じかなと思います。

He brought the flowers himself,

特に解説ないので、訳を。「彼は自分でそのお花を持ってきたんだよ」

and I should have asked him in, if I had been sure what was going on upstairs.

そして、これが本題の仮定法です。should have p.p.で仮定法の可能性を予測。後悔を表すというやつです。なぜこれが仮定法と言えるかというと、「しなきゃよかったのに」って言ってるとき、現実ではしてしまったんですよね。ということは、現実と距離あることを言っているので仮定法と言えます。一応shouldはshallの過去形と言えますが、それはおいといて……
ともかく仮定法かなとあたりをつけて、今回は偶然if節があって過去完了なので仮定法過去完了で当たり。つまりは過去のことを仮定法で言っています。”what was going on upstairs.”は上の階(=二階)で行われていること、すなわち二階の様子ということです。asked him in のinは中に入ってもらうことを意味していると思われます。ですから、「中に入るよう言う(頼む)」→「上がってもらう」くらいでしょうか。「よければ上がって、お茶でもどう?」と聞けたよな……と後悔してるんですね。
訳は、「もしあのとき私が二階の様子を確認していたら、彼に上がってもらったのに」としておきます。

He looked so wistful as he went away, hearing the frolic and evidently having none of his own.”

, hearing とあるのは分詞構文ですね。略せば分構(ぶんこう)、私の通う文構と同じ読みでなんとなく親近感があります(高校の先生がこう略して書かれていたのでなおさらのことです)。まあそれはいいとして、文末ですね。動作が同時なのか連続性あるものなのかによって「~しながら」か「そして~」というふうに訳が変わります。
困ったのはasの用法ですね。いろいろと教えられますが、ピンとこない人も多いでしょう。これに関しては文法書で確認していただきたいです(個人的には『真・英文法大全』を勧めますが)。
今回は時のasと考えて問題ないでしょう。時、理由、様態などいろいろ混ざった感じと考えても構わないと思います。しっかりとした区分にわけることができない(他の接続詞に変換するなど言語道断)、と言いたいなと思います。それは分詞構文でも同様ですね(これも関先生がおっしゃっていたかな)。
"wistful"は「名残惜しい、物足りない、思い沈んでいる」みたいな感じでしょうか。難単語だったかもしれません。
"flolic"は「おふざけ、陽気、浮かれすぎ」という意味です。これも難単語でしたね。書いておくべきだったのについつい忘れてしまいました。オランダ語起源の言葉のようです。ゲルマン諸語は本当に近いですよね。ドイツ語を習っていると、英文法は全く異なる種のモノですが、単語などは非常に似通っているのがわかります。まあこれはゲルマンというか、印欧語の特徴と言ってもいいかもしれませんね。
訳は「彼は陽気な話し声を聞いて、明らかに自分の居場所がないのだと思いながら去っていったよ。それはそれは、とても名残惜しいようだったね」としておきましょう。陽気な様子を「聞く」わけですから、彼女たちの笑い声なんかを聞いて自分には居場所なさそうだから帰っちゃおう、それが彼女らのためだ、と思ったのでしょうかね。運が悪い方です。それを見て、お母さんがああ、気の毒だなあ、と思ったというシーンでした。だからお母さんが娘たちにこのように言ったのでした。全文訳では、そうしたあらすじを反映させた訳にしてありますのでご確認ください。

構文把握

IS₁  likeV₁ his manners,O₁ and heS₂ looks likeV₂ a little gentleman,C₂ (so I’ve no objection toS₃V₃ yourS₃' knowingV₃' him,O₃' (if a proper opportunityS₄ comesV₄) ). HeS₁ broughtV₁ the flowersO₁ himself,M₁ and IS₂ should have asked助V₂ V₂ himO₂ in, (if IS' had助V' beenV' sure <what was going on upstairs>O' ). HeS lookedVso wistfulC (as heS’ wentV’ awayM’), (hearingV₁'' the frolic and evidently havingV₂'' none of his own).”

全文訳

「彼の行儀良さも好ましいし、ちょっと紳士っぽい感じだったよ。だから、きちんとした機会があるんだったら、彼と仲良くなってもいいんじゃないかしら。しかも彼は自分でそのお花を持ってきたんだよ。もしあのとき私が二階の様子を確認していたら、彼に上がってもらったのにねぇ。彼はあなたたちの陽気な話し声を聞いて、明らかに自分の居場所がないのだと思いながら帰っていったよ。それはそれは、とても名残惜しそうだったね。」

ポイント

  • 仮定法をマスターしよう!

  • 分詞構文は位置と文脈が大事。その幅の広さが面白いところ!!

  • asの意味をざっと知ろう!

  • 会話はうまく砕けた形に。

若草物語を終えて

実はこんなことをやっておきながら、一部しか読んだことがないのです。今回取り上げたのも序盤ばかりですし(笑)
ぜひお時間があればすべて読んでみてください。家族をテーマにした良いお話だと聞いています。

次回の課題文

さて、次は何にしようかな、と考えたとき、ちょっとおもしろいものをやってみようかなと思いました。小説ではなく、詩を扱ってみます。エミリー・ディキンソンという方はご存知でしょうか。その方の詩をそのまま和訳してみよう、という試みです。楽しんでください!!

Tell all the truth but tell it slant —
Success in Circuit lies
Too bright for our infirm Delight
The Truth's superb surprise
As Lightning to the Children eased
With explanation kind
The Truth must dazzle gradually
Or every man be blind —

Tell all the truth but tell it slant — (1263)
BY EMILY DICKINSON

参照文献


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