和訳のストラテジー #1 『若草物語』より

A distinguished personage happened to visit the school that morning, and Amy’s beautifully drawn maps received praise, which honor to her foe rankled in the soul of Miss Snow, and caused Miss March to assume the airs of a studious young peacock.

Little Women by Louisa May Alcott

『若草物語』からの引用でした。英文としては初級から中級程度。初学者にとっては少し難しい言葉も多く、大変だったと思います。しかもあらすじも書かず......すみません。今後に向けての反省とします。コメントで訳を頂けなくてすごく寂しかったです。まあ抜けてたところがあったのでしょうがないですね。次回から(今回の下にある課題から)、できたら訳を書いていただけると励みになります!!
では、今回関係ある部分だけ軽くあらすじを書きますね。
マーチ家の四姉妹の末っ子だったエミイは、学校で禁止されていたものの隠れて持っていくことが流行りだった塩漬けライムを持ってきていた。友達におすそ分けしてあげるためにたくさん持って行ったのだが、以前悪口を言ったスノーにだけはあげないと言った。その後、先生にばれてしまい没収されてしまう。
その没収されるシーンのちょうど前がこの一文です。
ではさっそく、部分ごとに分けて見てみましょう。

部分解説


“A distinguished personage happened to visit the school that morning,”

“distinguished”は“distinguish”「区別する」の過去分詞形「区別される」から、他とは区別される、すなわち際立ってるイメージを持ってください。形容詞で「有名な」という意味です。happen to V は「たまたまVする」です。似たものとして、happen to 名詞 で「Sが(名詞)に対して起きる」という意味のものもあります。合わせて覚えてしまいましょう。
ここで注目したいのは、文頭の“A”です。特定のものではなく、あるものの一つ、という感覚があります。今回も「名士」が不特定な誰かさんですから、ここでは「ある」と訳出してみたいと思います。
逆に“the”は特定されるもの、話題を共有する人がみんなわかるものを指します。今回なら作者も読者も(登場人物も)わかるもの、ということです。なので、この学校は主人公らが日常的に通っているところだな、と把握できます。一義的に「その」と訳出するのはナンセンスなのでやりません。
部分訳も示しておきます。
「その朝、ある有名な名士がたまたま学校を訪問した。」

“and Amy’s beautifully drawn maps received praise, ”

この部分で取り上げたいところは、主語の“Amy’s beautifully drawn maps”です。「エミイの美しく描かれた地図」と単語を当てはめるだけでは理解に苦しみますよね。“drawn” はもともと"drow"という動詞ですから、「描いた」とすることができますね。過去分詞になっているのは、修飾されている名詞"maps"が受動の関係にあるから(”maps”が”drow”するのではなく、”maps”を”drow”するから)ですね。そして”drow”の主体が”Amy”なんですね。なので、「エミイが描いた美しい地図」とします。これも前回やった名詞構文と考えましょう。
"received praise"はそのままと言えばそのままですが、「(地図が)賞賛を受け取った」というのもおかしな文ですから、「(地図を)褒め称えた」くらいにはなるでしょう。英語では実世界のモノヒト関係なく動作主になることが多く、日本語とはまた違った印象がありますよね!それも面白いことです。考えてみると欧州の言語には実際の性とは関係なく「男性名詞」「女性名詞」なんていうものがある(英語では古英語にはありましたが現代英語にはありません)ように、「実世界」と「言語世界」で価値判断が分かれているともいえそうです。こういう一面をちょっととらえるのも楽しいですね。
話がそれてしまいました。部分訳は、「そしてエミイが描いた美しい地図をお褒めになった」としておきます。

"which honor to her foe rankled in the soul of Miss Snow,"

関係詞whichですが、非制限用法のために区切らせていただきました。もちろん場合によっては先行詞に修飾させるのもありだと思いますが、基本的には「そしてそれは~」と区切ってしまったほうがわかりやすいと思います。今回の場合もその通りです。ただ、この関係詞whichは"which honor"となっていることからわかるように形容詞の働きをしています。高校二年の定期テストでこの関係形容詞が出たとき、かなり多くの人が解けていなかったと聞きました。意外と見落としがちですよね。三年生になれば受験対策も進むでしょうからみなさん知っているとは思うのですが。
さらにそこに"to her foe"という前置詞句がかかっています。このように関係詞節内の主語がどこにあるかを把握すると、動詞が“rankled”であることが見やすくなりますね。“rankle”は「苦しめる」で構わないのですが、「栄誉が心を苦しめる」というのも前述の通りモノが動作主でおかしな感じがするので、「栄誉のせいで心が苦しんだ」と因果関係+受け身で処理します。言っていることは同じですね。
訳は「そしてその彼女の敵に対する栄誉によってスノーの心が傷つけられた」
なのですが、ここで出た「彼女」が誰なのかを考えねばなりません。褒められたのはエミイですから、「彼女の敵」がエミイです。そう考えると、傷ついたスノーが「彼女」となるわけです。全文訳できれいに訳しましたから見ておいてください。前の部分との繋がりを考えると、「そのせいでスノーの心は傷ついた」とシンプルに訳すのもアリかもしれませんね。翻訳ならいいと思いますが、今回は英文に正確に訳すことを第一の目標とするので採択しないでおきます。

"and caused Miss March to assume the airs of a studious young peacock."

"cause"は前の部分の"rankle"と並列に繋がれています。"cause O to do"で「主語が目的語にto以下をさせる」という定訳が一応はあります。ただ、訳すときには「主語によって目的語がto以下をする」で構わないのです。なぜなら"cause"は因果関係を表すものだからです。ここまでは有名な話でした。
では”a studious young peacock”をどう訳しましょうか。言葉通りに日本語にすると、「熱心な若い孔雀」です。そしてここでの"airs"は「(気取った)様子」といった感じでしょう。そして"assure"は「推測する」といった有名な意味ではなくて「(性質、様相)を帯びる、呈する」ですね。これらから、「マーチが熱心な若い孔雀の様相を呈する」でもたしかに悪くはないのですが、みなさんは「孔雀」と言われてどういう印象を抱きますか?めいっぱいに羽を広げた様子が素晴らしいと思う人もいれば、誇張だ、というように感じる人もいるでしょう。
英語では"as proud as a peacock"で「(孔雀のように)大いばりで、とくいげに」という熟語があります。ちなみにこれは“p”の押韻なんですね。頭韻というやつです。ですから孔雀にはそこまで意味を持たないのですが、“as proud as a pig”なんて言うことはなかなか無いですから、ある程度孔雀にそういったイメージを持っているんでしょう。そして、先程の孔雀の感覚からいえば後者に近いのでしょうね。もしそれを念頭に置いているならば、「得意そうに」などと訳出するのもいいと思うのですが、どうでしょうか。
これらを踏まえて訳出すると、「そしてそれ(栄誉)によってマーチは若く勉強熱心であることに得意げになっていた」くらいにはなるでしょうか。

構文解析

解説の最後に構文解析も載せておきましょう。<>が名詞句/節、[]が形容詞句/節、()が副詞句/節です。ルビでSVOCを振ってみます。’ が付いているところは従属節の文要素となります。すべて必要そうなところだけにとどめておきます。

<A distinguished personage>S₁ happened toV₁ visit the schoolO₁ (that morning), and <Amy’s beautifully drawn maps>S₂ receivedV₂ praiseO₂[, which honor [to her foe]S’ rankled V'₁(in the soul of Miss Snow), and caused V'₂ Miss MarchO'₂ <to assume the airs [of a studious young peacock]>].C'₂

全訳例

私なりに文章を整えた全訳を示します。

その朝、ある有名な名士がたまたま学校を訪問し、エミイが描いた美しい地図をお褒めになった。そして、スノーの心は彼女の敵に対するその栄誉によって傷つけられた。また、エミイは褒められたことで自分が勉強熱心であることに得意げになっていた。

所謂「意訳」になるのは当然のこととして、上で書いたポイントを踏まえて書いてみました。後とのつながりを考えると、二文目と三文目は逆にして合ったほうがいいような気もします。実際、訳本では逆になっているのもあります。

ちなみに、その後ライムを持ってきているのがばれたのは、ここで面白くないと思ったスノーが、先生にチクったからでした。

ポイント

今回のポイントをまとめてみましょう。

  • “a”と“the”の違い

  • 名詞構文の復習

  • モノが主語のときは受け身で訳すと良くなるときがある

  • 関係形容詞の非制限用法

  • 人称代名詞が誰のことを指すのか考える

  • “cause O to do”の因果表現

  • “peacock”の持つ意味

いかがでしたか?この一文にたくさんのポイントが詰まっていました。ぜひ何回も音読をしていただいて(目安は10回〜30回)、すべてを吸収してください。その地道な積み重ねが英語力向上につながります!!次回の課題文も掲載しておきますので、ぜひ予習してみてください!

次回の課題文

No sooner had the guest paid the usual stale compliments and bowed himself out, than Jenny, under pretense of asking an important question, informed Mr. Davis, the teacher, that Amy March had pickled limes in her desk.

Little Women by Louisa May Alcott

また『若草物語』からです。先ほどのライムを持ってきたことがチクられるところです。ここも文法的にも大事なところがあるので訳してみましょう。何回か若草物語をやったらほかの作品も見てみましょうか。

今回は以上です。ご覧いただきありがとうございました。コメント欄に訳を書いていただけると嬉しいです。よろしくおねがいします。ではまた次回お会いしましょう。

参照

Project Gutenberg : Little Women by Louisa May Alcott
https://www.gutenberg.org/ebooks/514


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