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『愛の鰻』(詩)

鰻が苦手な君が
食べたいと言ったから
鰻が好きな僕も
食べたいと思ったから

愛なんて鰻を素手で掴むようなもんだろ
掴んでも逃げていく
掴んだつもりだと思っている
締め付ける 握り締める またほどく
手のひらで踊り狂う
手のひらから逃げてゆく
上手に掴めた ほんの一瞬 ちょうど一瞬

愛なんて都合よく焦がせはしないだろ
次の手を出して
握り潰さないようにして
ぶった切って
串を刺して焼いてしまえ

100年間継ぎ足して作られたタレを塗れ
何が入っているのか分からないタレを塗れ
愛か 憎しみか 些末な出来事か

香る100年を塗れ 何度も塗れ
焦げ付いた焼色なんて消してしまえ
誰かの100年で塗ってしまえ
僕らが食べたのは
100年のうちのどれくらい?
ほんの少し これくらい こんなにも

ただ僕らは 鰻を食べただけ
僕は君と 鰻を食べただけ
僕はまた鰻が食べたい
君はまた鰻が食べたいか



(おしまい)

僕の書いた文章を少しでも追っていただけたのなら、僕は嬉しいです。