上尾寒手

ショートショートを投稿します。馬鹿々々しいものばかりかもしれませんが読んでいただければ…

上尾寒手

ショートショートを投稿します。馬鹿々々しいものばかりかもしれませんが読んでいただければ嬉しいです。

最近の記事

アリアドネの伊藤

 どこまで続くとも分からない通路を照らすのは二本の松明のみ。行く先は暗く、背後もまたすぐに暗闇へと包まれる。前後感覚を失わせる無限の回廊のなかではたして自分はどちらから来てどちらへ向かっているのか。しかし、今、テーセウスを悩ませているものはこの迷宮を攻略することができるかということでもこの道の先に待ち構えているであろう怪物を倒すことができるかということでもない。 「テーセウスさん、どうかされましたか」 「何でもない。いいから早く案内してくれ」 「はい、はぐれない様に気を付けて

    • タイムハナノホール

       へっくしょん。  私は押さえる間もなく朝食の並ぶ食卓へと飛沫の散弾をぶちまけた。手に持ったティッシュペーパーは行き場がなくなり、かといって捨てるわけにもいかないのでとりあえずテーブルを拭くために使った。  しかし、我ながら大きいくしゃみだ。風邪でもひいたのか、あるいは古来から謂われるように何者かが私のうわさをしているのか。何せ鼻から百円玉が飛び出してテーブルの上で回転運動をするほどのくしゃみである。よほど私をこき下しているのかはたまた絶賛しているのか。  と、ここで一つ疑問

      • 害悪追放委員会

        登場人物 ・害悪田悪太郎……害悪追放委員会委員長。ありとあらゆるものを害悪と判定する。 ・ふぇみ川ふぇみ代……害悪追放委員会評議委員。女権拡張主義者。 ・右島右也……害悪追放委員会評議委員。国粋主義者。 ・作者……この話を書いた男。こんな下らない物語を考えた捻くれたメガネの愚か者。 ・観客(もしくは読者)……この話を見ている。こんなくだらない作品に時間を費やしている。 ・粛正ロボット……害悪判定されたものを熱線で消滅させるロボット。自分では何も考えられず、量産され何らアイデン

        • 御粥学概説

           粥川梅男教授は堂々たる足取りで講義室へと入っていった。歩行という単純な行為に関わらずその威風堂々さたるや。歩みを止めることはなんぴとにもかなわず、仮に立ちふさがるものがあったとしても重機のごとく双脚で踏み倒さんといった迫力があった。腕の動きはゆっくりとしたものだったがそれは時計の振り子がその動きによって時を刻むのと同じように自身の動きを正確に律するための緩慢さであった。粥川梅男は御粥学の権威としての誇りを持ち、己が教授という職たるにふさわしくあろうという態度と行動を常に心掛

        アリアドネの伊藤

          月にペパロニを

           月が綺麗だ、と皆が言った。  数多の偉い人たちもそうでもない人たちも月を美しいと褒め称え幾星霜が過ぎた。昼の月を見て夕暮れの月を見て夜の月を見る。あらゆる時代あらゆる国の人々が中天にかかる様々な形の月に風流を感じ、詩にしてみたり団子をつまんでみたりして楽しんできた。  それだというのに私は一度も月を見たことがない。いや、見ることができないのだ。  これには事情がある。何を隠そう私は狼男なのである。狼男というのは満月を見ると狼男になってしまう男のことである。私が満月を見るとウ

          月にペパロニを

          ウニ

           人々が通勤ラッシュと呼ぶ時間帯、つまり七時であるとか八時であるとかいった時間に私は通勤をしていた。もちろん、やむなくでありそのような時間に通勤をしたくはない。だが、しがないサラリーマンの私が自由な時間に通勤を出来るはずもない。鬱々と人の黒い塊に流されるだけの日々を過ごすしかないのである。  その様に、毎日が過ぎるはずであった。  ところが、私の人生に於いて最も奇異で忘れる事の出来ない日が訪れたのである。  ぼたぼたと垂れる汗は地面に跡を残し、飽和してしまったシャツが肌にこび

          シイタケ

           流行というのはどうにも難しいもので、流行りにのっている人からすれば至極当たり前のことだけれども、他所から見れば何とも理解し難いことに思えるものです。  僕も初めは一体何がいいのだろうと思っていたのですが。  まあまあ、もう少し耐えて話を聞いて下さい。もちろん君が聞きたいのは私の流行に対する私見ではないことは重々承知しているけれどもね。  ところで、あちらの方はどうでしたか。まさか君が一年も外国に留学するなんて、僕には住み慣れた土地を離れて暮らすなんてことはとても想像出来ませ

          シイタケ