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古川柳つれづれ ものさしで雪をつっつく日記づけ 柄井川柳の誹風柳多留三篇①

 江戸時代に川柳ができた。「川柳」という名前にもなった柄井川柳が選んだ「誹風柳多留はいふうやなぎたる三篇」の古川柳作品の紹介。今につながる江戸庶民の心。
 読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。川柳は五七五だが、前句は七七で出題されたもの。
 自己流の意訳を載せているものもあり。七七のコメントもつけたりしている。
 



ものさしで雪をつっつく日記づけ

6 物さしで雪をつつつくつっつく日記づけ  さがしこそすれさがしこそすれ


 「日記づけ」は日記をつけること。日記をつける人は、雪が降ったら、いくら降ったのか物差しで雪の深さを測っている。それを日記の記事にするのだ。
 前句の「さがしこそすれ」は定規を探すというよりは、雪の深さを尋ねる意味だろう。「探すものな~に?」と出題されて、「あっ、日記に書くために雪の深さを測ることだ」と思いつく。「雪の深さを探しているんだ」と作った句が柄井川柳に選ばれた。

定規出し雪を測って日記書く
雪の深さが今日の記事なり

 毎日noteを書いている人はすごい。でも、ネタがなくならないのだろうか。週2回でもなかなかネタがないのだけれど、江戸時代の人も、日記に書くネタをさがして雪の深さを測っている。それだけ日記を書く人の割合も多かったのだろう(文字を書ける人の割合も当時としては日本が世界一だった)。何かを記録しようとするのは人間の本能かも知れない。
 江戸も現代も、正確な記録を残そうとする性格の人だからこそ日記も毎日続くのだろう。
 



女房の留守もなかなかおつなもの

366 女房の留守も中中なかなかおつなもの  すいな事かなすいな事かな


 たまに女房がいない生活もオツなものだ。
 前句の「すいな事」は、「粋」のことだろう。「すい」は後に「いき」と言われるようになり、野暮やぼに対する語となった。
粋⇔野暮

女房の留守もなかなかオツなもの
その後男は何もできずに
 

 夫が死んだ妻は長生きするけど、妻が死んだ夫はすぐに亡くなる人が多い(周りを見ていれば)。



貸本屋何を見せたかどうづかれ

113 かし本屋何を見せたかどうづかれ  いたづらな事いたづらな事


 江戸の町では貸本屋が当たり前にあった。当時の人は寺子屋で学び、文字が読める。本は買うのではなく、貸本屋から借りていた。貸本屋は、普通の本ばかりでなく、エッチな本も扱っていた。そんな本を女性客にわざと見せたのだろう。「まあ、いやだ」とどつかれてしまった。「いたずら(いたづらなこと)」をしてしまったのだろう。

エロ動画見せたら彼女にどつかれる
女の気持ち男はわからず

 



女房を持って朝寝にきずがつき

140 女房をもって朝寝にきづがつき  やりばなしなりやりばなしなり


 前句が「やりばなし」だが、何をやりっぱなしなんだろう。独身の時は朝寝をしても何もないが、女房ができるとやりっぱなしになって朝寝をしてしまうんだと勘ぐったのだろうか。

女房を持つとなかなか起きられぬ
夕べ二人で何してたのか

 



 最後はいやらしく終わってしまったが、性を謳歌したのも江戸庶民の文化の特徴。売春である遊郭の文化だけでなく、夫婦でも性を隠すだけでなく、文化として表に出していた。文字を学び日記も書く余裕もある。戦乱が続き、生活が苦しければ、性の話なんてできない。noteにこんな話が書けるのも平和だからこそ。
 


 タイトル画像は松岡緑堂の「百鬼夜行之図」より。水木しげるよりも前に、いろんな画家がいろんな妖怪を想像した。妖怪をも遊びに昇華していた江戸時代。江戸の文化の奥深さよ。


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