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北風と太陽

 北風と太陽が言い争いをした。
 「俺の方が強いぜ」
 北風が言った。
 「いやいや私の方が強いですよ」
 太陽も応えた。
 「おっ、向こうから男がやって来る。あの男の服を脱がせた方を勝ちにしよう」
 北風の提案に太陽も応えた。
 「いいですよ」
 北風は冷たい風をひゅーっと男に吹き付けた。
 北風来た来た来た来たぴいぷう吹いてきた。
 男は風に飛ばされないように服をしっかり押さえた。
 北風はさらに冷たい風を力いっぱいぴゅーぴゅー吹き付けた。
 男はさらに服を押さえて飛ばされないようにした。
 北風は冬とともにやってきて、辺りを氷の世界に変える。
 今まで外で咲いていた花たちも、北風が吹くと姿を消す。
 北風は木の葉たちも吹き飛ばす。
 世界を氷の世界に変える力を持っている。
 もっともっと強くとびゅーびゅー、びゅーんびびゅーんと風を吹かすが、男はさらに服を押さえる。
 ついに北風は力尽き、太陽に交代した。
 太陽は穏やかに日の光を辺り一面に照らした。
 太陽はさんさんさんと燦燦さんさんと輝いた。
 何かを強制するわけではない。ぽかぽかぽかぽか穏やかに暖かさを与える。
 男は服を脱いだ。
 それを見た太陽は、光の強さを増した。
 かんかんかんかん、がんがんがんがん光が辺りを照らす。
 ここぞというところでは力を入れる。
 ただ穏やかなだけではない。
 普段は穏やかにしているが、力を入れるタイミングを計っていたのだ。
 暑くなってきた。
 熱中症警報レベルになる。
 男はたまらず、服もズボンも脱ぐと、近くにあった川に飛び込んだ。

 無理矢理に何かをさせようとしても効果は少ない。
 何かをさせようと思ったら、まずは穏やかに相手に接する。
 最初から「詐欺ですよ」と言っては信用されるはずがない。
 最初は穏やかに相手の話を聞くことだ。相手が話しやすい雰囲気を作ることだ。

 詐欺学の講義では、「北風と太陽」の話は最初の授業で説明される。
 


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