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江戸の川柳 旅帰り大きな腹のままで去り 柄井川柳の誹風柳多留五篇②

 結婚と離婚。男から三行半を渡し離婚する夫婦も江戸時代にはあった。何かがあったから離婚するのだが、好きで離婚するわけでもない。
 江戸時代の人々が五七五で創り、柄井川柳が選んだ「誹風柳多留はいふうやなぎたる五篇」の古川柳紹介。
 読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、七七の前句を記す。
 自己流の意訳を載せているものもあり、七七のコメントもつけているものもある。 



病人のみんな見ておく医者のくせ

75 病人のみんな見て置くいしやいしゃのくせ  かぞこそすれかぞこそすれ

 大病ではそうではないだろうが、寝込んでいる病人は暇で暇でたまらない。そこで医者の様子を見ていると、医者のクセが目につく。医者のクセを「数える(かぞへこそすれ)」のだ。

病床の楽しみ人の観察か
なくて七癖医者とて同じ



かみしも浄瑠璃じょうるりよほどひどく酔い

83 上下かみしも上るりじょうるり余程よほどひどくよい  おどけこそすれおどけこそすれ

 着慣れぬかみしも姿でいるのは結婚式だろう。そこで酔っ払って「おどけて(おどけこそすれ)」浄瑠璃じょうるりをうなる。浄瑠璃じょうるりは、三味線伴奏で物語を語るものだが、浮気話など結婚式には不似合いな話も多かっただろう。酔っ払ったらそんなことは考えられない。

酔っ払い結婚式で禁句出す
それも楽しく幸せだから



ぬき足で帰る亭主は邪推じゃすいなり

94 ぬき足でかていしゆていしゅじやすいじゃすい也  さいわゐな事さいわゐな事

 女房が浮気しているのではないかと邪推じゃすいして、抜き足差し足で家へ帰ると女房は一人。浮気は杞憂だった。これまた「幸いなこと(さいわゐな事)」だ。

遊郭で遊ぶ男に妻もまた
自由恋愛している夫婦


 

旅帰り大きな腹のままで去り

307 旅帰り大きなはらのまゝで去り  いとしかりけりいとしかりけり

 一年くらいの長い旅から帰ってみたら女房が大きな腹をしていた。浮気をして子どもまで作っていたので離縁。去り状(三行半みくだりはん)を書いて実家に帰した。けれども「愛しい(いとしかりけり)」気持ちもある夫。
 自由な恋愛をしても、不義密通は離縁されるし、切り捨て御免もありうる。だからこそ燃えるのかもしれない。

浮気した妻への未練いつまでも
それでも世間に許されぬこと



  タイトル画像は、曲亭馬琴のハラハラドキドキの冒険活劇「南総里見八犬伝」より、犬田小文吾こぶんご悌順やすより。相撲が得意で力持ち。絵は暴れ牛を押さえている。
 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字の出る玉を持った八犬士の一人。小文吾こぶんごは「てい」の玉を持つ。「四篇」に続き、八犬士の残り四人の紹介。 

犬田小文吾


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