ショートショート「予告状」

予告状が届きました。『あなたの一番大切なものをいただきます』とあります。盗みの予告です。なんと大胆な、しかし、なんと愚かな。こんな風に予告をしてしまえば、こちらとすればいくらでも対策を立てられるわけですから、その分盗みづらくなるではありませんか。なにか裏があるのでしょうか?そう考えないと、釈然としない感じもします。
とにかく、盗むと予告されたからには、たとえなにか裏にあろうとも、守りを固めるしかありません。
金庫を用意し、大切であろうと思われるものを片っ端からそれに入れて鍵をしました。また、ドアというドア、窓という窓に丈夫な鍵をつけ、監視カメラを至るところに設置し、警報装置も取り付けました。警備員も配備し、獰猛な番犬も飼うようにしました。こんな言い方は変かもしれませんが、さあ、いつでも来いといった気分です。
ところが、いつまで経っても泥棒はやってきません。待てど暮らせど。この厳重な警備に恐れをなしたのでしょうか?なんてことのない相手だったようです。胸を撫で下ろすような、少し物足りないような、複雑な気分です。
まあ危機は去っただろうと、金庫にしまったものを出してみると、はて、なぜこんなものを大切に思っていたのかと首を傾げるばかりです。なるほど、大切なものは盗まれてしまったようです。

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