小説『エミリーキャット』第54章・heads or tails?
401号室は水を打ったような鎮けさで彩は自分が息をしてもその呼気が極度の静寂の中で大きく波紋のようになって響くのではないかと感じ、普通に息をすることさえ憚(はばか)られた。
気がつけばふたりは室(へや)にある黒い革張りのソファーに向かい合ったまま座っていた。
お互いにどうしてそうなったのかその経緯を全く憶えておらず、
まるで記憶喪失のように抜け落ちた記憶の果てにふたりはいつの間にか、差し向かいとなっていたのだった。
山下は茫然とその椅子に深く腰掛け、目の前にある机と自分との間