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「速さは強さ」積水化学・鍋島莉奈選手〜これまでの振り返りと今の思い〜

何か気になる選手っていませんか?
私にとってその選手が、鍋島莉奈選手なのです。

2017年からアスリートインタビューをさせていただき、今回で15人目のアスリート。

私が鍋島選手を初めて知ったのは、彼女が大学3年時の日本インカレです。
駅伝強豪校には所属しておらず、地方大学で力をつけてきた鍋島選手に興味を持ったのです。

社会人になり、メキメキと力をつけ、日本選手権においては2017、2018年は5000m、2019年は10000mで優勝。

速いけど、強さもある印象を持ちました。
今回は、そんな鍋島選手のこれまでの陸上人生、そしてこれからの競技への思いを聞きました。

鍋島さんー8
写真提供:Hideaki Iwakuni

鍋島莉奈選手プロフィール

1993年生まれ。
高知県須崎市出身
須崎中→県立山田高校→鹿屋体育大学→日本郵政グループ→積水化学
2014年 日本学生選手権10000m 優勝
2015年 日本学生選手権10000m 優勝
2017・2018年 日本選手権5000m 優勝
2017年 ロンドン世界選手権 5000m代表
2019年 日本選手権10000m 優勝

遊びの延長線上で走ってた中学陸上部時代

加納:陸上を始めたきっかけは?

鍋島:中学校の部活では屋外の競技がテニスか陸上しかありませんでした。そもそも選択肢が少なかったんですけど、小学校の頃は校内マラソン大会で1位でしたし、友達にも誘われたので陸上部に入ることにしました。それが陸上を始めたきっかけです。

小さい頃から足は速かったですが、どんな大会があるとか、誰が有名選手かなんて全然知らず、ただ単純にみんなで試合に行くのが楽しかったですね。遊びの延長線上に陸上部があったと思います。

加納:まさに「かけっこ」だね。そしたら、どんな大会があるとか、どうしたらそれに出られるとか、そういったのも分からなかったの?

鍋島:はい、中学生の頃はそういうのも全然知らないまま走ってました。陸上や駅伝の全国大会があることを知ったのは高校生になってからです笑

今振り返れば、すごく自由に伸び伸びと走っていました。100mのレースに出て、その5分後に1500mのレースに出たこともありましたから。

加納:そりゃすごい!私は最初から長距離一択。逆に何の疑いもなくそうしてたから、逆にそういうのは面白そうだし、いいなって思うよ。
当時100mのレースを走っていた経験って、後の競技生活に活きてるなって感覚はある?日本選手権のラスト勝負で勝つ感じとか、鍋島さんのイメージってそういうのがすごく強いよね。

鍋島:どうですかね?活きてるのかな笑
中学の時は友達と部活をやるのが単純に楽しかったので、100mをやったことによってラストが強くなったというよりも、日々友達と競走していた結果なのかもしれません。

加納:ちなみにトラック競技以外はやったことあるの?

鍋島:幅跳びは数回やったような記憶はありますが、トラック競技が専門でした。でも幅跳びが一番楽しかったかな。

加納:え?笑

鍋島:成績が良かったのは1500m、3000mの長距離なので、結局長距離を選ぶことになったんですけど、やってて楽しかったのは断然幅跳びでしたね。当時は中学を卒業してからも、陸上を続けていくかどうかはあんまり考えてなかったですね。

駅伝強豪校へ進学、思い切ったレース展開で成長

鍋島さん−2
写真提供:鍋島莉奈選手

加納:中学は楽しみながら陸上やってきたのに、高校は山田高校っていう駅伝の名門校に進んだんだね。その経緯を聞いてもいい?

鍋島:高校でも長距離をちゃんとやりたいなら、山田高校がいいという話になりました。別の学校で競い合ってた友達からも誘われたので、山田高校にしようって感じです。

その時になっていろいろ調べて、山田高校が全国高校駅伝の常連校だとはじめて知りました。そもそも、高校駅伝って大会があること自体知らなかったんですよ笑

加納:そんな状況で、よく山田高校に進んだね・・・山田高校なら、寮生活でしょ。

鍋島:部活がなければ通える範囲だったんですけど、陸上部に入る子は基本的に寮に入るので、高校から寮生活でした。家を離れることの寂しさは意外となかったですね。

加納:寮生活は厳しかったの?

鍋島:中学の時は伸び伸びとやっていたので、朝練で寝坊しても行かないこともありましたし、今日練習あったの?って感じの日もありました

でも、高校に入ってからはそれが一転。毎日の朝練は当然ですし、数日に一回は朝食の当番があって、その時は4時半に起きなくちゃいけないんです。そのことを入学直前に知って、これはとんでもないところを選んじゃったぞとビクビクしちゃいました。

でも、行ってしまえばやるしかないので、ひたすらがむしゃらにやってた感じがします。

加納:話を聞いてると、なんだか自分の高校時代がフラッシュバックしてくるようだよ苦笑。私も、中学の時は楽しく走っていて、高校で強豪校に入ったから。毎日必死だった。

鍋島:そうですね、常に緊張してた気がします笑。「寝坊しちゃいけない」「部内での上下関係」とか。どれも当たり前のことかもしれないんですけど、今までその環境にいなかったので、最初はなかなか慣れなかったです。

加納:競技成績としては、2、3年と全国高校駅伝の1区で上位争いしてたよね。実業団に入ってからの成績が目立つけど、当時からしっかり結果を残して活躍してたのはすごいよ!

鍋島:当時は3000mの持ちタイムが9分30秒くらいだったにも関わらず、エースが集う1区で先頭に飛び出るような場面がありました。テレビ中継で「大丈夫でしょうか、鍋島さん」と言われてたみたいです笑。

加納:でも、そういうのが、きっかけになって化けることあるしね。
自分と一緒に走っている選手が、どのくらいの力の選手とかって知って走ってたの?

鍋島:実は全然知らなかったです。あとで知りましたが、周りで走ってる選手のほとんどは3000mの自己ベストが9分一桁でした。そりゃ、実況のアナウンサーに心配されて当然ですね。

加納:実績のある選手に名前負けする以前に、知らないからこそ、思い切って走れたのかもしれないね。

鍋島:それもあるんですけど、実はスタート直後の競技場を出た瞬間に路面が石畳になるので、そこで転倒しないようにって先生から言われてたんです。それを気にしながら走ろうとしたら、結果的に先頭に出ただけで、そのまま行けっちゃったんですよね。高校時代まではいい意味でまだ陸上競技を知らなかったのですが、思い切ったレースが私を成長させてくれたと思います。

どうしても勝ちたい、10000mで勝負した大学時代

鍋島さん−3
写真提供:鍋島莉奈選手

加納:大学は鹿屋体育大学に進んでるよね。駅伝の強豪校なら、当時は立命館大学とか名城大学が選択肢に上がってきそうだけど、そんな中で鹿屋体育大学を選んだのは何が決め手だったの?

鍋島:最初は「しかやたいいくだいがく」って呼んでたくらい、大学について全然知らなかったんですけど、保健体育の教員免許が欲しかったので、大学のコーチと高校の先生が話して勧めてくれたんです。

加納:現役時代に鹿屋体育大学に行ったことがあるんだけど確か最大酸素摂取量の測定があって、九州最南端の鹿児島に、こういった研究施設があるのは面白いなと思った記憶がある。

鍋島:都会とは違って色々なものが揃ってるわけじゃないんですけど、研究施設として恵まれていたと思います。

加納:大学ではインカレチャンピオンにもなってるよね。その経験を経て、何か変わったことってある?


鍋島:自分で目標を決めて課題を探れるようになりました。高校時代はひたすら競技に打ち込んでいたので、大学に入ってから先生や仲間と一緒になって目標を決めて、それに向かって頑張ったり、自分たちの力を試すことができたのはすごく楽しかったです。怪我もあったので、いいことばかりではなかったですが、純粋に競技を楽しめました。

加納:実は、鍋島さんに1個伝えとこうと思ってたことがあるんだけど、鍋島さんが大学4年の時の全日本大学女子駅伝でテレビの解説のお仕事をいただき、その時に「加納さんが期待している選手は誰ですか?」ってアナウンサーに聞かれて「鍋島さん」って答えたんだよ。

鍋島:えー、その年は全然走れなかった時ですよ。

加納:ずっと注目してるからね。その頃から、「将来マラソン走ってくれへんかなー。」って思ってたから。

鍋島:ありがとうございます。でも、大学の4年間は、ずっと走れていたってことはなくて、一番走れていたのは大学3年生の時ですね。

加納:インカレ優勝しているもんね。

鍋島:はい、10000mで勝つことができました。いまでこそ、10000mに出る選手が増えてきましたけど、当時、大学の女子選手って10000mにチャレンジする選手がそこまで多くなかったんですよね。
どうしても勝ちたくて1500m、5000mではなく、10000mを選びました。勝ちにこだわったレースでしたね。

自分の勝ちパターンができて面白さを知った実業団

鍋島さん−5
写真提供:EKIDEN NEWS

加納:実業団に入ってからは5000mの色が強くなった。それは、やっぱり5000mで戦いたいと思ったから?

鍋島:10000mは長いと感じていて、1500mは動きが速いのもあって、自分の得意なペースで押していける種目を考えると5000mかなと思ったんです。
あと、当時は同じチームにオリンピックの10000mで代表を狙っている選手もいて、ちょっと代表を狙うのは厳しいかなと思うとこもありました。
でも、5000mをやりだして、5000mの面白さに気づいて、どんどんのめり込んでいきましたね。

加納:どんなとこが面白いと感じたの?

鍋島:ラスト1周の勝負で勝つ、自分の勝ちパターンができたことで面白さが増しましたね。

加納:自分の得意や勝ち方、日本選手権で勝つ、海外レースの経験もすることで、見えるものって変わってくると思うんだけど、周りの反響とか変わってくることで、プレッシャーになることはなかったの?

鍋島:プレッシャーはなかったですね。
レースで勝ち上がることで、今まで繋がることのなかった選手との交友関係もできるのが、頑張る糧にはなっていましたね。
レースや合宿に参加したことで、今までそういうのがなかったので、走るってこういうのにもつながるんだみたいな。それは、嬉しかったですね。

加納:戦友且つ、仲間みたいなね。

鍋島:普段、一緒にいることのない選手と近況とか悩んでいるとか話すことで、気持ちがスッキリして元気になって、それで、また明日から頑張ろうと思うことも多かったです。

加納:それ大事よね。
自分の中にあるものを消化するみたいな感じだね。

世界を見てかわった価値観

鍋島さん−6
写真提供:EKIDEN NEWS

加納:これまでの海外遠征で印象に残ったことってある?

鍋島:海外の選手はコーチとの関係性がフラットに見えましたね。それも、海外選手が強くいられる要因なのかもしれません。
遠征に行くたびにその姿を見て、こういう関係って大切だなと思いました。それに引き換え、自分って、監督やコーチに自分の意思を伝えることができてない。。。

加納:これ言っていいのかな?とか、遠慮しちゃうところあるからね。
今はどう?チームが変わってなんか変わった?

鍋島:今は競技はもちろんなんですけど、競技以外でもいろんなことをやっている選手がいっぱいいるので、このチームはスポーツ選手の概念が全然違うと感じています。

今までは朝練やって、朝食とって仮眠して、午前中に練習して、という生活をしてきたのが、今は、午前の早い時間に練習して、そのあとは自分が今後やりたいこととかのために時間を使っていて、すごく有効的だなと感じています。

陸上選手だけど「今日午後から打ち合わせ」という選手もいて、私からすると「打ち合わせって何?」と最初は思いましたが、そういう姿がすごくキラキラしているなって感じます。

加納:選手はいつかは競技から離れるときがくるから、競技から離れた立場の私からすると、同時進行していった方がいいんと思うんだよね。
視野が広がることで、競技にも生きるし、将来やりたいことに繋がりやすい。
私は辞めてから慌ててやったからものすごい身に染みて感じているんやけど、現役の価値ってものすごいあるからね。

鍋島:選手の時の価値の方が、自分自身の価値も高いっていうことですか?

加納:圧倒的に高いし、受け入れてくれる人も多いと思うよ。
でも、いますぐに何かっていうのは思い付かないかもだし、無理に何か見つけようともしなくてもいいと思う。
たまに、興味がある選手の打ち合わせについていっちゃうとかもいいかもね。

鍋島:いろいろ驚かされていますね。
チームのあり方って、これでなくてなならないとかないんだと。
新谷さんが東京マラソンに向けてトレーニングされている時も、「チーム新谷」みたいな感じで、何も言わなくても自然とみんなが集まる。
すごいなーと思いながらその場にいました。

加納:いや、鍋島さんももう立派な一員だよ。
最後になりますが、ここでまた選手としてリスタートしたわけですけど、今後どんな選手になっていきたいですか?

鍋島:海外のレースで自分自身の肌で感じたこととか、世界と日本のギャップを伝えれるようなことができたらなと思っています。
でも、伝えたいからには結果を出さないと伝わりづらいとこもあるので、まずは結果を出したいですね。
今の自分の状態から、また走れるようになったらいろんな人の救いにもなるのかなと。

加納:応援している人多いと思うよ。
そして、鍋島さんを応援するのは私の趣味やから、これからも注目してます。

インタビューを終えて

鍋島さん練習風景
写真提供:Hideaki Iwakuni

鍋島選手とお話しさせてもらったのは初めてでしたが、初めてのような気がしないくらい、共感できる部分が多かったのが印象的でした。

今、競技を続けている現役選手の中でも、鍋島選手のような様々な経験をしている選手は貴重な存在だと思います。

だからこそ、もう一度鍋島選手の中で「頑張れたな私!」と思えるような走りをしてもらいたいなと思いました。

かっこいい鍋島選手の走りが好きな方が、私以外にも多くいるはずです。
鍋島選手の今後の動きを温かく見守りましょう!

写真提供:EKIDEN NEWS、Hideaki Iwakuni、鍋島莉奈選手

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