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おまえは14歳の時に稼げてたのか?と言われてもな

 昭和のプロ野球球団 南海ホークス(現ソフトバンク)の主砲、門田博光氏が急死した。

 初めてナイターを観戦したのは中学3年の夏休み。高校受験対策の夏期講習が終了したので、そのご褒美として、父親にせがんで大阪球場に連れていってもらったのだ。
 
 南海VSロッテ という、当時のパリーグとしてはそこそこの人気カード。なんせ カネやんロッテ が話題になっていた頃ですから。

 当時、関西地方でパリーグのナイター試合がテレビ中継されることはまずなくて、土曜日、日曜日のデーゲームであれば、NHKや関西テレビが 阪急や近鉄の試合をよく放送していたけれど、平日のナイターは、実際に球場に行かなくては観ることがかなわなかった。
 
 一塁側指定席 とはいっても、スリバチ状の急こう配スタジアムだから、上空から選手を見下ろすような感じ。

 「野村は監督で4番やねんで」
  「3塁コーチャーはブレイザー」
 「門田は日本人ではホームラン一番打ってるねん」
 「最後は佐藤が出てきて抑えてほしいな、リリーフエースやから」

 なんて、父親に偉そうに説明をしながら観戦していた。

 今のような外野席ではなくて、内野席に私設応援団が陣取っていて、この人たちがロッテの選手たちに対してヤジを飛ばすんだが、これがユーモアたっぷりで飽きないのです。下手な漫才よりずっと面白い。

 対戦相手が阪急ブレーブスの場合、3塁側の私設応援団の団長さんがダミ声で南海の選手をヤジってくるので、それに1塁側も応戦する。
 でも殺伐とした雰囲気には絶対ならないので、BGMとしては最高だ。
 この場面はYOU TUBE で配信されているので観ることができます。

 「何でこんなに面白くて、すごい選手がいっぱいいてる試合を、新聞やテレビラジオで報道してくれないんやろうか」

 サル中学生にとっては疑問であった。

 父親曰く
 「黒い霧事件(八百長疑惑)でパリーグは人気がなくなったんやな」

 当時の一般の認識はそんな感じだったのだろう。

 そんな話をしていると、門田の打ったものすごい弾丸ファウルが近くに飛んできて、観客席に突き刺さった。
 「おい、門田!危ないやないか!誰かに当たったぞーー手加減せえ!
ただでさえお客さん少ないのに、これ以上味方が減ったら困るやろ!医者代お前に請求するからな」
というヤジに観客席はどっと沸くのでした。

 昭和は遠くなりにけり。

 門田選手死去のヤフーニュースを読んでいたら、目に飛び込んできたのは「お前はうちの息子の歳で稼げていたのか?」という見出し。

  14歳の非登校ユーチューバーの父親(自称心理カウンセラー)が、世間に対して挑発的なコメントを連発している。

 「お前は14歳の時に稼げていたのか?」と言われたら「いや、自分では稼げていなかったんで、父親に野球観戦に連れていってもらってました。」

 としか答えられないが、それは恥ずべきことだったのか。

  この父親(自称心理カウンセラー)の思い描くシナリオはおそらくこうだった。

第1段階 息子を 学校に行かない人気小学生ユ-チューバー として売り出   す。
第2段階 「冒険」というキーワードで、日本中を旅したり、格闘技に挑戦させたりして、レポートを動画配信する(広告収入で生計を立てる)。

第3段階 自身が教育評論家としてメディアに露出する。

尾木ママ みたいなポジションを狙っているのだろう。

 さて、第1段階は成功であった。
話題作りはできたし、既成概念を打ち破るような行動に対して、期待を込めて好意的に応援する人たちも多くいた。

 しかし、第2段階は、失敗しつつある。

 クラウドファンディグで集めた資金で、父親と一緒に車でドライブすることが「冒険」か?
 ボクシングもどきのショーに出演することが「冒険」なのか?

 その疑問を呈した意見に対して、父親は「思考停止」「嫉妬するバカども」といったコメントを連発するだけ。
 極めつけが「お前ら14歳で稼げてたのか。」である。

 なぜ第2段階が失敗しているかというと、「人間的な実力が、親子ともども備わっていないから」に尽きます。

 貴方が街を散歩してたら、路上で大人同士の言い争いが始まったとしましょう。とりあえずヤジ馬は集まりますね。でも、そのうち飽きてきます。
みなさん、自分の用事がありますからね。

 昭和の時代にはユ-チューブなんてものはなかった。メディアとは、新聞テレビラジオのみであった。無名の市民が何かを発信する ということはあり得なかった。
 パリーグがメディアから無視され続けた不遇の時代。

  でも、そんな昭和の時代にこの子が生まれていたなら、また違った人生送れていたんじゃないかなあ と思うと、何が幸せで何が不幸か、ってそう簡単には答えが出ないよなあ、と思うのでした。
 


 
 

 

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