「きょう重いわ」

ほんまに先輩かどうかわからん初対面のハケてきた芸人が、僕にとって禁句とされているワードを繰り出した。

それは直後出番である僕に親切に教えてくれてるつもりなのだろうが、せっかくお金を払って見にきてくれてるお客さんに対して失礼すぎるし、客はそもそも同じ1人1人の生身の人間。

それぞれに生活があって、わざわざ時間を割いて正直そんな見たくもないテレビにも映ったことのない無名の芸人を下も向かずにチャンスさえあれば笑おうという姿勢で見てくれてるのである。

重い？

平成に産み落とされたこのキショイ言葉。

責任転嫁も甚だしい。

いや正直そらもっと笑えよ！と思うことはあるが、それならそうそのまま言ってくれた方が気持ちがいい。

まるで3番いってきまーすみたいに隠語のように。

で決まって半笑いなのであるそれを言うとき。

想定した笑いを取れなかった照れや悔しさや怒りを半笑いで「きょう重いわ」と言うことで自分で自分のちんこを舐めているのである。

反吐が出る。

見てられない。

よくもそんな醜態を同業者に晒せるな。

そして逆の場合は隠し切れない満足げな顔をして「きょう軽いわ」と言い放つ始末。

客をなんやと思ってるマジで。

ポンと叩かれた左肩についてもいない埃という名の忌々しい邪（じゃ）を右手でさっさと払って、出囃子の流れる中を飛び出していった。

「どーもーーーー、、、、、えー、、そうですねぇ、、、、」

ネタが終わってハケたところで、相方に詰め寄られた。

「え？どうしたん？めっちゃ変やったけどずっと」

「いや、客、重かったから…」

常々、僕が「客が重い」という言葉を嫌っていることはコンビのラジオとかで何度か話しているので、驚いたかもしれないし、別にまぁなんとも思ってないかもしれない。

相方は漫才中、客席を見ない。

だから、気付いていない。

最前列、左から、

ダンベル、冷蔵庫、スーツケース、カンガルー、ゲーミングチェア、大玉転がしの玉、米俵、水槽

2列目、

畳、ゆで卵とバタートーストとナポリタンとサラダとハッシュドポテトとオムレツのワンプレート、革靴が10足くらい入ったゴミ袋、ゾウガメ、歩行者用信号機、パンッパンのリュック、米俵、米俵

3列目、

バランスボール、業務用加湿器、マジックで「本」って書いてあるダンボール、でかい氷、ダンベル、大型犬、カンガルー、鉄扉

4列目、

力士、カンガルー、サマーウォーズに出てくるでかい氷、サマーウォーズに出てくるスーパーコンピューター、サマーウォーズに出てくるでかい氷、カンガルー、力士、親方

5列目、

嫁入り道具、太陽の塔（さすがに実寸ではない）、自由の女神（さすがに実寸ではない）、サマーウォーズに出てくるでかい氷、スーツケース、（空席）、女の長文LINE、80億円

6列目、

京都タワー（さすがに）、でかい氷、ホッキョクグマ、でかいタイヤ、パンダ、大砲、餅4個入ったお雑煮、爆弾低気圧の爆弾マーク

7列目、

ふすま、ゼクシィ、（空席）、犬小屋、ゾウの赤ちゃん（ネタ中に帰った）、ブックオフの『ホームレス中学生』の在庫、（空席）、原付

8列目（関係者席）、

バズってたあのでかすぎるコウモリ（天井から吊り下がっている）、若者1人につき5人の老人が乗っている年金問題の挿絵、太ってはいないけどタッパがある男性、鉄メガネ、（空席）、黒電話の受話器の部分がダンベルになってるジョークグッズ、民家のWi-Fi、米俵

帰り支度をしているさっきの先輩に駆け寄っていった。

「重かったです」

「やっぱ重いやんなぁ」

「でも、バランスボールって軽ないですか？」

「ん〜」

「…」

「微妙やな」