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【エッセイ】健康曼荼羅

 いつも自分の体調を気にかけているわけではないけれど、体調不良に陥ると、何が良くないのかと考える。もう若くはないのだから、なかなか快食・快眠・快便とはいかない。それどころか、肩・腰・目・胃腸・そして心……いつもどこかが故障しているような。だから、自ずと体調を気にかけることになる。いや、わかってる、深酒のせいだ、それと睡眠不足、さらには仕事のストレス……あとは、食べすぎかな、それに運動不足?

 若い頃は不健康そのものの生活を若さでカバーできたのに、今は単純にそれができなくなってしまったということだろう。

 サプリ、運動、食事、あるいは食事制限など、人にはそれぞれ自分だけの健康法があるらしい(何にも気にせず、我慢せず、無理もしないのも健康法の一種であろう)。おそらく科学的な根拠ではなく、自らの体験と体調に基づいている。あるいは、信仰。そう、誰もが健康について一家言いっかげんあるのだ。最近、この手の話を訊くのが面白くなってきたし、聞かれもしないのに実に活き活きと話す人もある。商売ではなく、宗教の勧誘でもなく、本気でタメになると思って善意から勧めてくれる。ありがたいことである。

 会社の先輩Aさんからは、禁煙外来を勧められた。

 高校生の頃から喫煙してきた自分は、今まで何度も禁煙に失敗してきた歴史がある(最長で二年)。もはや煙草の奴隷であった。何十年にも渡って毎日毎日、煙草を吸いつつ、吸っていない時は吸いたいと思いながら暮らしていたと言って良い。単なるニコチン依存を通り越して、あの色、形、感触にフェティッシュな愛を抱いていた。あの人差し指と中指の間にしっくりフィットする感触よ。

 それでもやめたいと思ったのは、法外な値上げのせいもあるが、やはり健康を考えた上でのことだ。

 結果は大成功で、呆気なく禁煙に成功することができた。絶対にやめられないと考えていた煙草をやめ、毎朝健やかに朝勃ちするようになって、万能感(大袈裟)までゲットできた。Aさんには大感謝である。しかし、このとき服用した禁煙補助剤チャンピックスは、許容量を超える発ガン物質が検出されたとこで、現在出荷停止状態にあるという。トホホ。

 それに知らなかったが、実はAさんは糖尿病を患っているというではないか。医者の忠告も守らず、ポテチやカルピスを暴飲暴食しては体調を悪化させているのだから、やはりリスペクトするわけにはいかない。とにかく大喰らいで、呑みにゆくと、厚切りベーコン、フランクフルト、山盛りポテトフライをテーブル所狭しと並べる。見ているだけで胸焼けするよ。そういえば、緑黄色野菜を食べている姿を未だかつて一度も見たことがないな。自分がサラダやお浸しを注文すると、ニコニコ上機嫌だったAさんの丸い顔はたちまち曇る。

 行きつけの酒場の常連のBさんは、糖質制限を勧めてくれた。腹の出たAさんとちがって、Bさんはスラリとして姿勢も正しい。

「ムダな贅肉が一切ありませんね。何か運動されてるんですか?」思わず質問してしまうほどである。
「ああ、それはね……」とBさんは満面の笑みを浮かべて、待ってましたとばかり糖質制限について熱く語り出す。
 曰く、体重が落ちた、加齢臭が消えた、水虫が完治した、睡眠の質が向上したなど、良いこと尽くめではないか。人生を変えた糖質制限の本まで紹介してくれたが、まだ読んでいない。

 話を聞いているうちは、なんだかBさんの興奮に染まって明日にでも始めるつもりなっているが、酔いから冷めると、はて自分に糖質制限なんて可能だろうかと首を傾げる。ご飯もパンもパスタも食べられないなんて、人生損してない? 油っこいラーメンはしばらく封印しているが、一生我慢せよと言われれば、自信はない。禁止されればされるほど、人はそれを渇望する。

 まあ、日々の食事の中で糖質の量を無理なく少しずつ減らしていければ良いんじゃないか、そんなことをゆるーく考えてみるけれど、外食の多い自分は未だ実行できていない。

 それにBさんは、喫煙者である。手巻きの煙草を好んでおり(「手巻きだと吸いすぎないんですよ」)、呑み屋ではいつも刻んだ葉を紙に巻いているか、完成品を吸っているかのどちらかで、禁煙した自分からしたら、なんというかかなり「煙たい」存在なのである。

 健康に一家言あり、何らかの健康法の実践者であっても、必ずしも不健康な習慣と無縁なわけではない。

 ガブガブ酒を呑み、次から次へとプカプカ煙草を吸う人から、「かんやんさん、コンビニ弁当は体に悪いからお止しなさい」などと忠告されたことがある。

 飲尿療法など民間療法にハマっていた漫画家の故さくらももこさんは、大変なヘビースモーカーだった。煙草を吸うからこそ、吸わない人の20倍は健康に気を使う、とか、喫煙の習慣が健康の大切さを教えてくれるなどが持論であったという(wikipediaの情報です)。

 いや、自分の尿なんかを飲むより、素直に禁煙した方がよっぽど健康的だろう。

 取引先のCさんは、16時間断食を勧めてくれた。いわゆるプチ断食である。

 呑みすぎ食べすぎによる胃もたれ、胸焼けに悩まされることの少なくない自分には、ストイックで魅力的に思えた。

「かんやんさん、これは絶対ですよ。見る見る腹がへっこんで、白髪が減って、おまけに昇進して、預金が増えました。第一、女の子たちからカッコ良くなったなんて褒められたりして、もうモテモテです!」

 どこのキャバ嬢だよ、それともパパ活女子か?

 そういえば昔、職場の後輩が嬉しいそうに、
「ぼく、女の子から手がスベスベしてキレイだって褒められました」
 と報告してきたことがあったが、シロートがそんなこと言うかねと思ったものだ。それにお世辞にしてもだよ、手しか褒められるパーツがないというのは、全く喜ばしいことではないよね。

 それはともかく、ファスティングである。1日24時間のうち、16時間は固形物を口にしない。胃腸を休ませ、空腹を味わう、つまり自分の余分な脂肪を食べるのである。うーん、実にストイック。

 目の前のCさんは、格好が良いかは別として、たしかに太っていない。白髪が減ったとか、預金が増えたというのは、あくまでも個人的な見解であって、ファスティングと因果関係があるとは限らないし、昇進はともかく、女にモテるようになったというのは単なる思い込みの可能性がある。

 とはいえ、やたら疑い深いくせに、すぐに感化されるところもある自分は早速試してみる。1日7時間睡眠として(なかなか確保できなかったりするが)、たとえば、その前後3時間何も食べない。これは夜勤が多く、不規則な生活を送っている自分には難しかった。夜勤明けに仮眠をとって、昼働いて、また仮眠をとって夜勤。会議や研修は日中にある。あれ、最後に食べたのは何時間前だったか?となる。

 そうか、そもそも夜勤が体に悪いのではないか、と思い当たる。なーんだ、仕事辞めれば良いんじゃないか。

 いや、簡単に辞めれねーよ! 失業ダイエットとか、シャレになんねー。

 ところで、プチ断食に本当に効果があるのか、科学的にはまだ証明されていないという。NOTEにもMakiseyさんの以下の記事が。要は食事の時間制限よりは、質の方が大切じゃないのという話らしい。


 しかしまあ、人の体というものは、皆それぞれちがっているのだから、どんな健康法が適しているのかは、やはり人それぞれなんだろう、と思わないではない。

 本当にどうでも良いような結論で申し訳ないですが、今回はここらで。もちろん、自分もまた自分なりの健康法を実践しており、熱く語ってみたいのですが、それはまたの機会に。

 よろしければ、皆様の(我流)健康法をお聞かせ下さい。ではでは。

(了)

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