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アジアのくらしを見つめたデザイン


〜アタック(Attack)〜

衣料用洗剤の「アタック(Attack)」は、今年で36歳。
今では国内だけでなく、アジアの多くの家庭で愛用されています。
デザインもその地域の生活者にとって有用でかつ魅力的なものを目指し開発しています。花王のデザイナーは、できる限り現地に赴き、その土地に根ざす商品のあり方を探ってきました。今回はそんなグローバルブランドの取り組みをご紹介します。 


足で回ると見えてくる生活文化の大きな違い

椎木:僕とアタックとの付き合いは入社時からで、他のカテゴリーへの異動もありましたが、20年以上になります。これまで、国内向けのデザインはもちろんですが、中国、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシアといったアジアの国々や、オーストラリアなどさまざまな国に向けてデザインしてきました。花王では、海外展開のためのデザイン調査に、自分達インハウスデザイナーも立ち合うことが多々あります 。僕の場合も、多い国で通算300日以上現地に滞在して調査を行いました。実際に各国の家庭を訪問するとそれぞれの生活環境への理解が深まります。住宅事情、水まわりの違い、家事の仕方だけではなく、暮らしそのものが見えてきます。そしてマーケターや商品開発メンバーたちと一緒に、目指す商品像を探索していきます。 

例えば、インドネシアでは洗たくは手洗いの家庭も多いため、素早く、確実に洗たくができて、すすぎが楽な「頼りになる」洗剤が求められます。パッケージも必要な時に必要な分だけ買える小さな袋タイプが求められていて、店頭ではこれらは吊って売られることが多いです。

このように生活の中での商品の使われ方や店頭等を実際に自分の目で見ることで、日本ではあたりまえだと思っていたことが通用しないのだ、といった気づきも多く、これらがデザイン開発のヒントになっていきます。Attack Jaz1で袋を横長にしたのは、その方が手に持ったときに縦長のものより重量感を感じ、「たっぷり使える」ことをアピールするため。薄暗い店頭でも存在感が出るように、赤と白、そしてグリーンのコントラストを強くしました。ちなみに「赤と白」はインドネシアの国旗の色でもあり、「インドネシアの生活者にもっとも愛される洗剤にしたい」という思いを込めています。


現地の人々の声や表情から次のイマジネーションへ

現地のデザイン調査では、生活者にデザイン案をお見せして評価をお願いすることもあります。それを見た時の声や表情から感情を読み取っていくと、新たなイマジネーションやインスピレーションへとつながることも多いですね。実は、僕はいつも色鉛筆と白い紙を持ち歩いていて、インスピレーションが浮かんだらその場でどんどん絵にするようにしています。アナログだけど、色鉛筆は必需品ですね。

また、生活者の方々に色鉛筆と紙をお渡しして、「あなたが自宅で使っている商品の絵を描いてください」とお願いすることもあります。僕は、デザインは渡して終わりではなく、渡った後に頭に残るべきもの、という信念を持っているので、この調査手法(recall test:再現テスト)は頭の中に薄れずに残っているものを再現するのに有効です。生活者とデザイン、商品がどんな絆を結んでいるのかを確認できますし、新たな共通イメージを見つけ出すヒントにもなります。


コロナ禍で見つけた新たな手法

椎木:コロナ禍では、なかなか現地に出向くことができませんでした。そんな中で同じチームの中村さんは、オンラインを使った方法で、独自のアプローチを続けていますね?

中村:はい。僕は2020年からアタックの担当になったのですが、椎木さんのようにまだ行ったことがないんです。そこで、各国のマーケターからの情報だけではなく、現地のSNSやブログやYouTubeをひたすら見ました。これが面白いんですよ。「なるほど!」と思うこともあれば「ほんとかな?」と驚くこともあり、その中から特にキーになりそうな情報をもとに仮説を立てて現地のマーケターとオンラインで議論する、を繰り返して理解を深めました。手さぐりでしたが、自主練をして答え合わせをするみたいで、想像力と創造力が鍛えられました。
その手法でやりとりをしていくうちに、デザイナーとして一歩引いた客観的な視点で、「生活者と商品がつながる点」を意識するようになりました。椎木さんとは、生活者を理解しようという姿勢は同じでも、アプローチは異なります。ただ今後は実際にこの目で見て、その地域の空気に触れ、それをデザイン開発に活かすということにも積極的に取り組んでいきたいです。


グローバルデザインは子育てのように時間をかけて

椎木:僕が嬉しいのは、中村さんのような次世代を担うデザイナーが、たとえ社会の情勢が変化しても、新たな手法を実践し、課題意識を持って、現地の生活観や価値観を理解しようと積極的に動いているという点です。グローバルな展開というと地理的な水平展開をイメージしますが、商品は子育てのように時間をかけて育てるものなので、デザイナーもその時間とともに自身の成長も実感できます。

インドネシアで家庭訪問をした時、「家族が自信をもって気持ちよく過ごせるようにと、皺ひとつない服を着せてあげたい」という話を聞きました。僕らがデザインした商品が他の国々の生活者の愛情表現や絆づくりにつながっているということも、デザイナーとしての大きな喜びですね。文化や習慣の違いがあっても生活者の心が動くポイントには共通点があると思うんです。それをしっかりと捉えてデザインで具現化するのが花王のグローバルデザインだと思います。