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人生の正午に河合隼雄「中年危機」を読んでみた私。

ユング派の臨床心理士としても有名な河合隼雄先生。
私が河合先生に興味を持ったのはだいぶ前のことになるが
NHKの「100分de名著」という番組で
著書を取り上げられていたことがきっかけ。

その後数冊読んで印象には残っているものの
しばらく河合先生の本から遠ざかっていた。

ーーーーーーーそして時は流れ、現在ーーーーーーーー
キャリコンの勉強を始めた中で
心理学、カウンセリングに改めて関心を持つこととなり
スクーリングの先生からも
「河合先生の本は読んだ方がいい」と勧められ
数冊購入したうちの一冊が「中年危機」。
私自身が中年(ユングがいう「人生の正午」)ど真ん中になったことと
これから中年の味方!として「愛すべき中年の皆様」を支援していきたいな
という思いもあって
このタイトルに心惹かれたのだ。

1. ユング派だからこそ書けた本

心理学は乳幼児心理学にはじまり、児童心理学、青年心理学、と人間の成長について考えるのがこれまでの考え方だったが、最近になって高齢化が進み老人問題が取り上げられるようになって、老年心理学というのも出てきた。
でも日本で、例えば大学で、「中年心理学」の講義をしているところはないであろう、と河合先生は言う。
そこまでの大人になると安定して変化もあんまりないし、研究の対象になることがないというところがこれまでの考え方。
でも、ユングは「中年」を大切に取り上げた。
「人生の正午」と言う言葉は有名だが、実はユングのところに相談に来る人は中年が多かったそうだ。中年の何が問題って「何も問題がなく適応しすぎることが問題」とユングは言う。恵まれている状況にあって「何かが足りない」と感じたり「不可解な不安」に悩まされる。

人生の課題をある程度成し遂げて、ある程度の自分の位置付けができた時に「自分はどこから来てどこに行くのか」と言う根源的な問いに答えを出そうとし始める。
実は私も今、その真っ只中なので、大きくうんうんと頷いて読み耽ってしまった。
そして読みながら「私だけじゃないんだなぁ」と改めて考えて、少しだけ安心した気持ちになっている。「私、変じゃないんだな」って。

このように中年について書くことができるのは中年の時期を大切に取り上げて研究してきたユング派の先生だからこそのことかな。
他の本だと「中年になっても元気にいきいきいきましょう!」なんて書いちゃう自己啓発本も多いと思うのだが、それが当事者にとってはきついんだってばよ、なんて思ったりするから。
河合先生の言葉はリアルで、優しく、心にスッと入ってくる。

2. 名著を引き合いにして語っているから、わかりやすい

私も過去に読んだことのある本たちが題材になっているので、時代背景なども含めて理解しやすい。
だからといって、名著の紹介本みたいなものでもなく、そこにはやはり心理学をベースにした中年の人物の心の動きを深く観察している視点がある。
この本は12の章で構成されており、

  1. 人生の四季 夏目漱石「門」

  2. 四十の惑い 山田太一「異人たちとの夏」

  3. 入り口に立つ 広津和郎「神経病時代」

  4. 心の傷を癒す 大江健三郎「人生の親戚」

  5. 砂の眼 安部公房「砂の女」

  6. エロスの行方 円地文子「妖」

  7. 男性のエロス 中村真一郎「恋の泉」

  8. 二つの太陽 佐藤愛子「凪の光景」

  9. 母なる遊女 谷崎潤一郎「蘆刈」

  10. ワイルドネス 本間洋平「家族ゲーム」

  11. 夫婦の転生 志賀直哉「転生」

  12. 自己実現の王道 夏目漱石「道草」

と有名な作品で、特に私が好きな作品も多いことから読みやすかった。
特に10章「家族ゲーム」についてはこれまで自分がこの本に感じてたこととは違った視点が語られていて、特に「ワイルドネス」の概念については考えさせられた。
「それは、より高く、より大きく、というようなそれまでの標語とは逆に、深く沈んでいってこそ発見できるのである」
「簡単に予測したりコントロールしたりできないもの、それがワイルドネスの特徴である。それを自分のこどもたちのなかに認め、尊重すること、これが中年の親に与えられた課題なのである。そのことはすなわち、自分自身のなかのワイルドネスにもつながることになるのだ。」
ワイルドネスなんて聞くと表面的には「アツいぜ」「パッション!」みたいなイメージだけど、深く沈んでこそとは、、、ワイルドネスとはそういうものなのか。


3. こうしましょう、これが正解、など一切書いてないから、結局答えは見つからない。時間をかけて自分で探すしかないということ。

河合先生の本の共通点は「正解は、ない」ということ。
「こんなパターンもあるね」「こんなことがあったよ」という語り口だから何かを押し付けられるのではなく、読みながら自分で考えていくことがポイントである。
「我々にとっては、自分の人生そのものが「作品」であるということもできる、」「かけがえのない人生を、我々は「つくり出す」のであり、そのような意味で、どのような人間であれ「創作活動」にかかわっていると考えられる。」
どう生きるのか自分で考えて、ちょっとした工夫をし、ちょっと失敗しても人はいつでも別の道を見つけることもできるし、どんな悲しいことがあってもまた誰かを愛することもできる(中年だって愛することはできる)し、結局、悩みはゼロにはならないし今までの悩みとは全然違うものに直面するけど、やっぱり自分の人生を創作するのは自分だな、というのが最後まで読み終えた率直な感想。
そう思ったら、なんだか悩みを清々しいものに感じてきたから不思議だ。
やはり河合先生の言葉は、優しい。
時には自分の心の奥底まで探検しながら、自分が探している「何か」を探し続けて、創作していこう。

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