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こどもとうみ「子どもたちとサバニに乗った バトンを渡す」

 葉山サバニ倶楽部のメンバーでもある私は、倶楽部のみんなの協力を得て、私の園の幼稚園児、小学生をせっせとサバニに乗せている。この倶楽部にも高齢化の波が押し寄せているものの、この地道な活動を通してコンスタントに乗りたい!と思ってくれる子どもたちが増えてきた。最近は卒業した小学生の子どもたちの練習を中心に大人が集まり、子どもたちの練習の後に大人の練習を付け加えている感じである。

 そもそもこのサバニとは、沖縄の伝統的な和船である。作り方にも日本の叡智が集結しており、話を聞けば聞くほど感動する。全てが理に適っているのである。私自身が舟を作ったことはないので、たくさんの皆さんから聞いた知識のみを伝えるだけしか出来ないので、毎年子どもたちを沖縄へ連れて行き、現地の方から直接お話をしてもらう機会も作っている。毎回何度聞いても私自身が唸るようなお話を聞くことが出来るという贅沢な時間である。

 私に出来ることは子どもたちを海へ誘うこと。

 幼稚園児には、まずは体感してもらうことから。日常で味わったことのないサバニ独特の「不安定」な動き。そして浜から離れてしまう「不安」。信じられるのは、乗せてくれる大人=私と、一緒に乗る仲間の顔だけ。安全を担保するためのある程度の「やくそくごと」を伝えると、それを必死で守る。☜実はこれがものすごくかわいい。

 毎年、いつもの保育と同じで、一緒に乗りたい仲間、乗りたい順番を子どもたち自身に決めてもらうのだが、やる気満々チームが1番手。出来れば乗りたくないチームが一番最後。

 最初のチームは、不安定な揺れさえも楽しくて楽しくて、遊園地のアトラクションか!?と思うほど、キャーキャーと大喜び!そのうち、舟の中のいろいろなものにも興味を示し、「これなあに?」「これは何するか?」と質問まで飛び出る。説明すると「やってみたい!」とチャレンジ。そんなうちに浜に戻る。そして、次のチームへの伝達をお願いする。

 自分が印象に残ったことを口々に伝えるので、その伝言ゲームは側から見ていてとてもおもしろい!興奮して伝えたいことが溢れていて、過情報極まりない状況になる。笑

 次のチームはたくさんの情報を友だちから伝えられて、少々飽和状況になりながらも乗船。「Aちゃんがここにつかまったらいいって言ってたよ」「バランスがだいじだって言ってた!」などと船上の会話から、友だちからの助言を実体験の中でキャッチしている様子が伺える。これも側から見ていると楽しい場面。

 こうして伝達されながら、最後のビビリちゃんチームの番に。傍目に見ていると海上でものすごい傾きをする舟だが、乗っていると意外と怖く無くなってくる子どもたち。しかし、最後のビビリちゃんチームは、その傾く様子を散々見てから乗るので、もう最高潮にビビった状況である。そこに来て、乗り終わった子どもたちが、それはもう楽しそうに、なんなら、さっきまで一緒にビビっていたはずの子まで、早口でいろいろ伝達して来る。
 舟出の前に「降りようかな〜」なんて聞こえてくる。「いいよ〜おりても。どうする?海に出ちゃったら降りられないから、今なら間に合うよ〜」「・・・・」「やっぱり行く」ちっちゃな声で答える。決めたその気持ちに対してこれ以上問いかけることは必要ない。「じゃ、出発しまーす」と舟を出す。キュっと舟を握る手に力が入っているのが分かる。お構いなしに海の上を滑らせていくと、友だちとの会話から徐々に緊張が解けていく様子が手に取るように伝わってくる。身体中の力もゆっくりと抜けて行って、しまいには「気持ちいい!」「楽しい!」「怖くない!」に変わっていく。

 浜に到着すると「もう一回乗りたーい!」と言われる。そんな時が一番嬉しい瞬間である。しめしめである。そうでしょう!そうでしょう!とニヤけるのである。



 これが小学生になるとまた変わってくる。小学生には、舟のカバーを外すところから、艤装して、乗って、片付けて、カバーを元に戻すまでの全てを子どもたちにやってもらう。一つ一つの意味を伝えながら。大体艤装に1時間くらいかかる。まだまだ、あーでもない、こーでもないとやっている状態だから。でも、ここをじっくり時間をかけることが大切。


 日々の学校の中で取り入れている「結び」を発揮する時。最低限の知識として、もやい結び、巻き結び、八の字結びが出来るように伝えている。日々使うから。そして、サバニの艤装では至る所でその知識を発揮出来るので、覚えている子どもたちは張り切って結びまくる。

 回数を重ねると不安定な舟の中での「漕ぎやすい場所」を探し始める。多少の揺れには身体がしっかりと反応しているので、子どもたち自身に怖さは無い。あれこれ腰の位置、踏ん張れるような足の位置、向きを試していく。

 スーッと海の上を走る瞬間を捉えて「気持ちいい!」と叫び、海上の目標物をみんなで共有し、「今11時の方向に見える」「9時の位置になったら向き変えるよ」「オッケー!」という具合になってきた。

 学校に戻り、サバニの各所の名前や役割を振り返りながら描いたという子どものサバニの絵は素晴らしかった。

 海の上ではいつまでも自分もプレイヤーでいたい、い続けたいと思うけれど、幼稚園児、小学生の海の上での様子を見ると、自分がプレイヤーでいられる間にしっかりとバトンを渡すことをしないといけないんだな〜とつくづく感じるようになってきた。
 バトンを受け取った子どもたちは、その先でそのバトンを繋いでくれるのか?そこは今、考える必要はない。受け取ったその子どもたちが決めることだから。

Passing the baton is important

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