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【No.6】クスリに関する記憶

幼い頃、重い瞼をこすりながら起き上がると、誰もいなかったということがよくあった。4人兄姉の末っ子だったので、幼稚園に行くまでの期間、かなり時間を持て余していたように記憶する。

正確には家のどこかに祖父母はいてたのだけど、姉と兄が寝ていた布団はもぬけの殻で、その上に放り出されたぬいぐるみや絵本が、寝入るまでガヤガヤワヤワヤと楽しかったことを思い出させた。

あの日は、おそらく私は熱を出していて、普段ならば立ち入ることのできない二段ベッドの下段に寝ころんでいた。氷嚢はぬるくなって、頭の上に重くのしかかっていたし、口の中がやたらと乾いて、私は起き上がった。

二段ベッドの手すりには、バファリンの銀色のパッケージがキラキラと朝日を反射していた。それは、まるで動物園の売店で売っている飴玉を思わせた……のではないかと思う。

そうでなければ、その後の行動の言い訳が付かない。私は、むしゃむしゃとそのバファリンを食べたのである。

残念ながら私の記憶はそこで終わっていて、あまりの苦さに泣いたとか、吐いたとかそういう思い出が一切ない。


こんな自らの愚かしい過去を思い出したのは、毎日病院でビオフェルミンを服用しているからである。

粉っぽい、しかし微かに甘いビオフェルミンの味を、あまり好ましいと思ったことはないが、私の兄は大のビオフェルミン好きであった。

瓶に入ったビオフェルミンを手の平に乗せてもらい、コリコリと美味しそうに食べていた。薬がなくなったら蓋についた粉を指で拭ってなめていた。

変わった嗜好の持ち主で、ビタミンCの酸っぱい錠剤もコリコリと奥歯で噛んで食べていたこともある。

粉薬を毎食持て余しながら、ふとそんな風景がよみがえったのだった。


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