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ルージュの魔法

メイクになんて気をつかえない数年間だった。外に出るために、誰かにじっと見られるのが怖いから武装する、ただそれだけの道具に成り下がっていた。

ふと気持ちに余裕が生まれはじめた時に、リップルージュをすすめられた。色をさした自分の口もとの乾いた肌が、鮮やかにつややかに、艶かしくグラデーションしていく様にドキッとした。

口びるに何かをまとうことがあれほど苦手だったのに、翌日からは習慣となった。

薄くてきれいな口だね。そうコーチに言われたのは中学生の時だった。

美醜の話ではない。
楽器吹きに向いてるかどうか、だった。

当時私はトランペット吹きだった。トランペットのように、マウスピースが小さな楽器は、薄い口びるが向いている。高音からハイトーンが鳴りやすい体質だった。

口なんて別に思い入れはなかった。

ほどよく薄い私のパーツは、色香や音色を鮮やかに引き立てているのかもしれない。

鏡を見るたびに、ふと思い出している。

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