長い長い一日と、金のコンソメ。2015.9.17 スープラボ・レポート

完璧な、という意味を持つ、コンソメ(consommé)。肉と野菜を長時間煮込んでとったブイヨンをベースとして、もう一度肉や野菜を足して煮出し、複雑なうまみと風味を引き出します。時間と労力に糸目をつけない、贅沢で洗練されたスープの王様です。

スープ・ラボでは、酔狂にも(酔狂が身上!)このコンソメを一日かけて作ることにしました。長時間となるためゲストは迎えずに行う、ひとりラボです。

コンソメ最大の特徴といえば、あの透明感ではないでしょうか。ブイヨンを澄ませる“クラリフィエ(clarifier)”という手順を踏んで、濁りのないクリアな色と味わいのスープを作ります。一般的には卵白を入れて煮ることで、卵白にアクや脂、汚れを吸着させて取り除く手法がとられています。

おおまかには(1)ブイヨンをとる(2)ブイヨンを澄ませてコンソメを作る、という2段階です。それでは早速、ブイヨン作りからまいりましょう。

1. 釣り糸をたらしてひたすら待つように。時間を贅沢に使うブイヨン作り

コンソメのベースとなるブイヨンの材料は、こちらです。

牛すね肉2.5キロ、仔牛の骨2キロ、鶏1羽、鶏ガラ1羽分、たまねぎ2個、にんじん2本、セロリの茎2本、ポロねぎ(リーキ)1/3本、パセリの茎5~6本、タイム3本、ローリエ1枚、白粒胡椒。これに水が約8リットル。

これでもレストランで作る分量には届きませんが、家庭の台所と考えるとめまいのする量です。普通の鍋ではとてもムリ!用意したのは30cm径、20リットルの寸胴鍋です。

血や汚れを洗い流した肉類と骨と水を鍋に入れ、強火で煮立てます。温度が上がるにつれ、汚れのような茶色のアクがブクブク上がってきます。

アクは水温が上昇するときに出ます。キリなく出てきますので、ある程度すくい取ったら野菜投入!

写真は野菜を入れて煮て、出てきた野菜の白いアクもすくったところです。肉を火にかけてからおよそ1時間。
縛ってあるのはポロねぎとブーケガルニ(ローリエ、タイム、パセリの茎)。煮えたときにバラバラにならないようまとめています。

さあ、ここからおよそ5~6時間、とろ火で煮込んでいきます。

写真ではわかりにくいのですが、スープの表面がゆらゆらと揺れ、ときどきポコッ、ポコッと泡が立つぐらいの火加減。“ミジョテ”といいます。「ほほえむように」などという表現をされることもあります。文学的ですね。

先ほどの写真からおよそ1時間半後、スタートからだと2時間半ぐらいでしょうか。だいぶ野菜に火が通ってきた模様。肉や野菜のとても良い香りが部屋中に漂っています。とはいえ、まだそれぞれの野菜や肉の個性がはっきり主張している状態。

「いつまで煮ればいいの?」こうして煮ていると、そんな疑問がわきますよね。でも、きっかり○時間です、と答えるのは難しそうです。

今回コンソメを作るにあたって新旧多くのコンソメレシピに目を通したところ、ブイヨンの煮込み時間は4時間から12時間とかなり幅がありました。分量による、または使う部位による差です。いずれにせよ、時間をかけることで徹底的に素材からスープへと味を移すにはやはり時間がかかります。

むやみに長時間煮込めばよいというものでもなく、ブイヨンにも味や香りにピークがあり、そこを超えると味も香りも落ちてしまいます。鍋を見張りながら、ピンポイントで火を止めるということが大事で、そういう意味で魚釣りに似ているものがあるかもしれません。準備は万端に、でも決して焦らずに。

今回は家庭の火力に合わせたサイズ。レストランの厨房で作るブイヨンと比べるとはるかに量が少ないため、5~6時間と見当をつけ、様子を観察しました。ただ、牛の骨に含まれる腱などのゼラチン質を十分に引き出すには、これでは短いのです。

ときどき汚れた鍋肌をさらし布で拭き掃除しながら。あまり量が減るようなら湯を差して増やします。

スタートから4時間少し。水かさも減り、野菜は食べごろです。そして、香りや見た感じも一体化、鍋の中は混沌としてきました。

このあたりで肉と野菜をスープと一緒に皿に盛り付ければ、いわゆる「ポトフ」ですよね。にんじんはホクホク、たまねぎはトロトロ、肉もやわらか。美味しそう!でも今日はブイヨンの中に素材の旨みを出し切るのが目的なので、食べるのはがまんして、さらに煮ていきます。

スタートから、およそ6時間半。前の写真と比べて野菜が沈んだのがわかるでしょうか。味が出切ったという証拠です。長年寄り添った老夫婦のように、どれが夫でどれが妻だかわからなくなっています。スープの味を見てみると、ぐっと深まり香りも十分。頃合いですね。火を、止めます。

これを冷ましてさらしの布を敷いたざるやシノワで濾せば、ブイヨンの完成!

2. 汚れの下に美しさは潜む。コンソメ作り

スープが冷えはじめると、肉の脂とゼラチン質が浮いてくるので、レードルでしっかりすくいとります。この色をよく覚えておいてください。

実はブイヨンがすっかり冷めるのに、思いのほか時間がかかってしまいました。ブイヨンが煮あがったのは7時前なのに、コンソメ作りをスタートできたのは10時半ごろ。寸胴鍋が大きくて、なかなかスープが冷めなかったためです。

レストランなどでは2日がかりで作るところが多いようです。ブイヨンを作って自然に冷まし、朝浮いた油をすくいとる。その方が時間のロスがありません。

ぼやいてばかりもいられないので、スープの冷める待ち時間を利用して、コンソメ作りの下準備をします。コンソメに使う材料はこちら。

牛すね肉800〜1kg、たまねぎ1個、にんじん1本、ポロねぎの青いところ、パセリの軸数本、タイム数本、ローリエ、クローブ、トマトピューレ100g、卵白6個分、塩、白粒胡椒。(写真にないものがありますね。すみません、置き忘れました)

牛肉はミンチにします。最初からひき肉を買って来る場合は、肉屋さんに頼んで粗く引いてもらいます。つぶすのではなく、細かく刻む感じです。私は塊肉を自分で刻み、腱の部分はフードプロセッサーを使って細かくしました。

この牛ミンチに、ざくざく刻んだにんじん、たまねぎ、セロリと、トマトピューレ、そして卵白、さらに冷水200mLを加えて、よくよく混ぜます。鍋の中で作業しても構いません。そこに、冷ましたブイヨン4リットルを、加えて火にかけます。

しっかりへらでかき混ぜながら中強火で温めていきます。卵白が入っているので、うっかりすると鍋底に焦げ付くのを防ぐためです。

白身の凝固温度となる70度前になったら、かき混ぜるのをストップ!

混ぜるのをやめた時点ではこんなに白く濁っているブイヨン。鍋の前に張り付いて観察します。
ブイヨンが熱くなるにつれ、玉子が肉や野菜を捕まえて、もこもこ浮き上がってきます。

ここからは目を離してはいけません。いよいよコンソメ作りのクライマックス。鍋の表面が盛り上がって、1ヵ所、2ヵ所でポコッと吹き上がります。その部分にレードルで穴を開けると…穴の部分から透明なスープがキラキラと顔をのぞかせました!

澄んだコンソメが、野菜や肉の下にすでにできている様子。でもこのままの状態をもうしばらく保ちながら、香味野菜もプラスして1時間ぐらい煮続け、肉と野菜のうまみを出していきます。ひき肉は少しずつ穴に浮き上がってくるので、レードルですくって周囲に乗せてしまいます。

約1時間煮た状態。穴の中の液体は美しく濃く澄んでいます!そしてえもいわれぬ、濃厚な香りが。

コンソメはとてもデリケート。レードルでそっとすくいながら粗びき胡椒を置いた布で大切に漉していきます。レードルですくえなくなったら鍋を傾けますが、やはり最初のものと、最後に残ったものは透明度が少し違うようです。

レードルの中のコンソメが、ブイヨンのときと透明感が明らかに違うことにお気づきでしょうか!

さあ、完成です。あたためて、ほんの少し塩。

浮き実は入れず、スープだけを味わいます。

以上が、コンソメ(Consommé Ordinaire) の作り方です。これだけ多くの要素を重ね、時間もかけながら、出来上がったコンソメは無駄がそぎ落とされたごくシンプルなもの。端正なたたずまいです。

もっと手短に美味しいスープをとる方法があれば、それにこしたことはありません。でも、スープを長時間煮出していると、徐々に肉や野菜の様子が変化し、それとともにスープのうまみや香りも変わることに気づきます。素材それぞれに、うまみが外に出ていきスープに溶け込むまでの適正な時間があるのです。
決して短縮できない、慌てて作れば本来の味ではなくなってしまう。時間をかける理由がきちんとあり、ある意味とても合理的な調理法です。

コンソメのレシピについてはとても興味深いことがあるのですが、それはまた別のnoteにてご紹介しますね。

それにしても長い長いコンソメ作りの1日でした。不十分な点はあるかと思いますが、まずは出来上がったことを喜びたいと思います。
約13時間にも及ぶ今回のスープ・ラボはこれにて終了。おつきあいいただき、ありがとうございました。

++

スープラボ♯10 テーマ:コンソメ
2015.9.17 12:00~25:30

レシピのための参考図書
『プロのためのわかりやすいフランス料理』水野邦明(2002年・柴田書店)『緑川廣親のシンプルフレンチ』緑川廣親(2005年・柴田書店)『エスコフィエ フランス料理』オーギュスト・エスコフィエ(1969年・柴田書店)『フランス料理の本:オードブル・スープ』辻静雄(1981年・講談社)

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有賀 薫

スープ作家。365日毎朝スープ。家庭料理を仕組みから変えて、気持ちよく食べる暮らしをめざしています。cakes連載『スープ・レッスン』https://cakes.mu/series/3722

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コメント4件

本当にお疲れ様でした!
金色に輝く澄み切ったスープ‼︎
芸術品です。
unimamさん、ありがとうございます。もっときれいに澄むと思うんです。またやりたいです。
お疲れさまでした^^ これを考え出した人も、気の長い人ですよね。すごく大変そうですが、「またやりたいです」の一言、さすがです...!
ミチルさん、このレポートはツイッターでもシェアしているのですが、そちらでコンソメのルーツを教えてもらいました。もともとは、賄いで卵の殻をいれたらスープが澄んだところからできたらしいです。コンソメはもう一度やりたいというよりは、まだ子牛の骨が2キロほど冷凍庫で邪魔になっているので、やらないといけないな…という感じです(笑)
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