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「想像責任」について

1つ前の記事で、「サイボウズ」の話を書いたので、前に講演会で同社の青野社長が言っていた話を紹介したい。

青野社長いわく、社内コミュニケーションを改善するために必要なことは、「説明責任」「質問責任」とプラス「想像責任」なのだそうである。

最初の2つ、「説明責任」「質問責任」はわかりやすい。何事も言語化して、皆んながわかるように説明し理解を求める姿勢は重要だし、わからないことや納得できないことがあるならばしっかりと問い質すべきであろう。

3つめの「想像責任」というのは、僕もその時に初めて聞いたのであるが、「相手の立場や気持ちになって考える」姿勢のことであるという。これが足りないと、社内で好き勝手で無責任な意見が飛び交うようになり、社内コミュニケーションの質がとても悪くなるし、精神的に追い詰められるメンバーが出てしまう。

「想像責任」が必要であるという具体的な事例として、同社が20年に「がんばるな、ニッポン。」というメッセージやCMを発信した際の話が、青野社長から紹介された。

東京五輪の開催や、コロナ渦の最中で、「頑張れ」という空気が大勢を占める一方で、「不必要なところまで頑張らなくてもいいはず」というメッセージをキャッチーに伝えたら、面白いんじゃないかというアイデアに基づいたものであったという。

実際に社外に発信される前段階において、社内ではたいへんな激論が交わされたのだそうで、「世の中を敵に回す」とか、「会社が潰れたら誰が責任を取るんだ」とかいった意見まで出たとのことで、担当部門のメンバーは精神的にも相当に追い詰められたのだという。

忌憚のない意見交換や議論は会社にとって絶対に不可欠であるし、言いたいことが言えず、「空気」が支配するような風通しの悪い会社は困るが、自分が言われる当事者だったらどう感じるだろうかという思いやりは必要であろうということで、「説明責任」「質問責任」にプラスして「想像責任」を重視し始めたのだそうである。

僕のいる会社も、「サイボウズ」同様にリモートワークが推進されている。リモート会議やテキストチャット主体のコミュニケーションというのは、便利である半面、自分の言いたいことをお互いに言い放っているような面があることは否めない。リアルな対面の議論よりも、相手に対する気配り、配慮、想像力といったものが試されることになるし、そうでなければ、ネットの世界での「炎上」みたいな現象が起きてしまう。

ネットの世界と違って、会社のような同じ組織に所属するメンバーの場合、それぞれ立場や考え方は異なっても、自分たちの会社を良くしたい、会社を守りたいといった「思い」の部分は一致している(はずである)。したがって、議論を議論のまま、勝つか負けるかみたいな局面で終わらせることなく、いろいろな意見を集約しつつ、どうすればアイデアをより良く発展させていけるのかをめざすべきであるし、反対意見もまたアイデアを進化させるための有効な構成要素だと考えることが重要なのであろう。

いわば、組織としての「弁証法的な思考」「メタ認知力」のようなものが不可欠になってくるのであろうが、そのためにもまずは、組織内においていろいろな「異論」が出てくること、「異論」が誰かを傷つけないこと、誰かに傷つけられないことが担保される必要がある。

つまり、「情報共有」と「心理的安全性」はセットでないとうまく機能しないと言い換えてもいいのかもしれない。


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