【500字小説】人間ドッグのお誘い
今朝、「人間ドッグ」を希望する者を募る社内一斉メールが届いた。
今回は特に、40歳以下の社員の応募を求めているようだ。
しかし、誰一人として申し込もうとする者はいない。
二か月前に入社した新人の田中クンが
「え~、ただなら僕希望しようかな。」
といつものように薄ボンヤリと呟いているのを聞いて、俺は老婆心ながら教えてあげることにした。
「田中、それ、人間ドックじゃないぜ。」
「へ?」
「ちゃんと読めよ。『人間ドッグ』って書いてあるだろ。」
「あー、はいはい。よくある誤字ですよね。健康診断のことですよね。」
「誤字じゃないよ。文字どおり『人間ドッグ』を募集しているんだよ。」
「へ?なんすかそれ?」
「人間ドッグつうのはな、『会社の犬』になることなんだよ。普通に仕事をこなしながら、社内のあちこちの不穏な動きを探してきて、会社の上層部に報告するのが本当の仕事だ。物凄い手当が付くそうだが、他の社員にバレたら肩身が狭くてここには居られなくなるだろうな。」
「うへー!えげつねえ仕事っすね!でも、手当が良いのなら、僕、応募しちゃおっかなー。なんせ、競馬の借金で首が回らないんすよねー。」
俺はさっそく上層部に報告した。
(おしまい)
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