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【500字小説】人間ドッグの恍惚と不安

 とうとうバレちまった。
 田中の野郎が、俺が人間ドッグに間違いないと大騒ぎしたせいで完全にバレた。

 お前が会社の試用期間終了ととも解雇されたのは、俺がお前の借金を会社にチクったせいじゃねえ。解雇の理由は、お前の社会人としての能力が致命的にお粗末だったからだ。借金なんてオマケみたいなもんだ。

 それなのに、あいつは逆恨みして俺の事を会社中に触れ回って去っていきやがった。
 会社も冷たいもんで、バレたらもう「犬」として使えないから、俺は「人間ドッグ」業務から外された。当然、法外な手当も全部パーだ。

 俺は社内で完全に信用を失って、ろくな仕事は回ってこなくなった。回ってくるのは敗戦処理みたいなクソ仕事ばっかりだ。
 今、会社中の人間が俺のことを白い目で見てくる。
 特に、女子社員の嫌悪感は凄まじく、蔑んだ目つきで「この犬がっ!」と面罵される日々が続いている。
 まるで、下僕のように俺をこき使ってくる。

 だから、俺はこの会社を死んでも辞めるわけにはいかない。
 なぜなら俺は筋金入りのマゾヒストだからだ。
 こんなパラダイスを手放すわけにはいかない。
 今日も俺は、涎を垂らして尻尾をブンブン振る犬のように会社に向かう。

(おしまい)


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