松雪泰子さんについて考える(55)舞台『東京月光魔曲』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:9点(/10点)
作品の面白さ:8点(/10点)
上演年月:2009年12月~2010年1月(Bunkamuraシアターコクーン)
視聴方法:DVD
 
※会場での観劇ではなく、DVDで視聴した感想です。
※多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや展開には触れないようしております。
 
幸運にもBOOK OFFで中古DVDを発見し購入。2009年12月から年またぎで上演されていたとのこと。上演時間が3時間半ということで、DVDも2枚組になっている。確かに、長い。中身はかなり濃い。
 
昭和初頭。針生澄子(松雪泰子)・薫(瑛太)の姉弟を中心としつつ、様々な登場人物が登場する。上京した兄弟や、探偵と助手…等の4~5グループの話が、別々に進んでいきながら最後に繋がる。
 
筋書きが若干複雑。説明を省略している部分や、人物名と相関関係を十分に把握していないと混乱するシーンがある。初見ではよく理解できず、観返して追いついた感じ。
 
とはいえ、サイコサスペンス的要素があって面白い。回転盆を使ったセットも手が込んでいる。

笑えるシーンの匙加減がちょうどよく、全体に漂う緊張感を中和している。このあたりは、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の脚本もさることながら、大倉孝二さん、犬山イヌコさん、ユースケ・サンタマリアさんらのセンスが流石。
 
他に、レビューショーもあり、官能的シーンもあり、とにかく盛り沢山。役者も豪華だし、普通にいい作品だと思う。
 
主演は瑛太さんで、松雪さんはその姉役で準主演のような位置付け。ただ、他にも出演者が多いので、出番はそう多くない。
 
役柄としては、弟(瑛太)に対して優しい姉である一方、娼婦として客の相手をするときはサディスティック。圧巻だったのは、前半に出てくる、常連客(大鷹明良)と一対一のシーン。連発されるサド全開の暴言が、どれも迫力あって、しかも官能的。蠱惑で挑発的な表情もいい。DVDに書かれている謳い文句に「谷崎潤一郎も平伏すエロティシズム」とあるが(そこまで書く勇気もすごい)、たしかにこのシーンは、耽美派小説のワンシーンを切り取ってそのまま三次元化したような文学性を感じた。

そして、松雪さんの声の使い分けは、このブログでしつこいほど言及しているが、まさにこのシーンで際立っている。上品な話し方と激しい口ぶりを、声色も変えながら行ったり来たり。その間髪容れず切り替わる際のギャップが被虐嗜好をくすぐるのか、客(大鷹)がいちいち恍惚の表情を浮かべていて面白い。
 
松雪さんの演じたドSキャラといえば、映画『デトロイト・メタル・シティ』の社長役が思い浮かぶが、あちらがマンガ的だったのに対しこちらは文学的で、似て非なる性質。他作品であまり観られない稀少な役柄。
 
他の役者も全員見事だったが、個人的にはユースケ・サンタマリアさんが好き。『海王星』(2021年)以前に、この作品で共演していたとは。今作でも、ユースケさんらしい演技が光っていた。キャッチ―な演技が上手だからこそシリアスな演技が深みを増す、独特の持ち味がある役者さんだと思う。配信されていないのが残念だが、『アルジャーノンに花束を』(2002年、フジテレビ)での主人公役が本当に素晴らしかった。

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