松雪泰子さんについて考える(53)映画『クヒオ大佐』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:7点(/10点)
作品の面白さ:5点(/10点)
制作年:2009年
視聴方法:U-NEXT

※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的な展開や結末には触れないようしております。
 
堺雅人さん主演映画。アメリカ軍のパイロットを装い女性を騙す詐欺師役。ちなみに、実在する人物が基になっているらしい。
 
騙される側として、町の小さな弁当屋の社長役を松雪泰子さん、博物館職員役を満島ひかりさん、騙されないどころか逆に金を貢がせようとする銀座ホステス嬢役を中村優子さんが演じる。
 
舞台設定は1990年代初頭。湾岸戦争に対する海部俊樹政権の国際貢献が焦点となる中、自衛隊派遣を旨とする国連平和協力法案が否決され、代替策として提示されたアメリカからの資金供出要求を吞むシーンが冒頭に出てくる。
 
がらりと場面が変わって、森の中を仲睦まじく散策するクヒオ大佐(堺)と弁当屋社長(松雪)。90年代っぽい風貌もさることながら、よそいきの甘ったるい喋り方の松雪さんは、他作品ではあまり見ない。
 
そこからは、クヒオ大佐(堺)が社長(松雪)の恋愛感情につけ込み、手練手管を尽くして金を巻き上げていく。自信満々に安っぽい芝居を打つ男と、それでも騙される女。その滑稽な姿がこの映画の笑いどころのはずだが、淡々と描かれていて盛り上がりに欠ける。終盤では、男の悲しい生い立ちと女の本心にストーリーの軸足が移るが、それも中途半端。最終盤では、もっと深い何かを描こうとした痕跡があるが、蛇足感。
 
結局何をしたかったのか、テーマがブレていて消化不良。題材的にもキャスト的にも、やりようによってはもっとグレードの高い生粋のコメディに仕上げられたのではと思うが、制作側は違う何かを表現したかったのだろう。その目的自体は否定しないが、それに拘泥して全体のトーンをおとなしめにするあまり、面白おかしく演出すべきシーンでテンション高く弾け切れないという自家撞着に陥っている。
 
ディテールの甘さも気になった。90年代初頭の舞台設定にしては、ファミレス(Joyfull)や家具屋の内装にそれを感じられない。特に後者。当時は無かったようなおしゃれなベッドが並び、店内の雰囲気やLEDっぽい照明の明るさも90年代のそれではない。このシーンだけタイムスリップしたかのようで、観ていて混乱した。せっかく車やタクシーにはこだわっていたのに、どうしてこうなったのだろう。

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