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病気という災禍

『みぞれふる空 脊髄小脳変性症と家族の2000日』米本浩二 著:文芸春秋

 「苦海浄土」の石牟礼道子氏を研究する作家、米本浩二氏が2013年の新聞記者時代に書いたのが本書。四十半ばで、脊髄小脳変性症という神経難病を発症した米本氏の奥様、佐恵香さんと家族との6年近くの闘病記だ。
 
 脊髄小脳変性症とは、小脳の萎縮で歩行困難や言語障害が出る難病。現在治療法がなく、辛うじてリハビリで現状を保つしか方法がないとのこと。

 発症が2008年で、闘病の最中で東日本大震災が起こる。ご夫婦の住まいは福岡ではあるが、ある意味日本に住む者なら全ての人が翻弄された出来事だった。
 本書のおわりで米本氏は、人知を超えたという意味で、「震災」が、私には「難病」と同義語に思えた、と書いている。
 この予期しない難病の渦中に放り込まれることの困難さが、特にコロナ禍を経た現在の私たちにも強く伝わる。

 病人との生活のなかで、今までのままではいられない。思春期の娘さんたちは、特ににその現実を受け止められなかったのだと思う。家族のなかのいざこざや、子供たちの反抗などもきれいごとにしないで書かれており、それは米本氏の実直さがとても伝わってくる。
 奥様に代わって、なれない家事仕事を担うなかで、家事労働の大変さを実感し、今まで生活のフレームを作ってきたのは妻だったことも実感。
 また、そこに奥様のリハビリの頑張りも相まって、暗くなりがちな闘病記が明るく、カラッとしていて重い出来事ではあるが、そこは救われる。

 本の中で、当時まだご存命だった頃の石牟礼道子氏が出てくるのも見どころ。石牟礼氏は、米本氏の取材対象者だったようだ。石牟礼氏も晩年はパーキンソン病に犯されていた(佐恵香さんと同じく神経難病)。
 「病気は神様からのいただきものと思うことがあるのです。尊いものをいただいている」と言う石牟礼氏の言葉が心に響く。

 病人とともに生きるということ、病気という災禍のなかでどう希望を見つけていくのか。立往生しながら、迷いながらケアをして、生きていくことの意味を想わずにはいられない。
 難病を抱えた人はもちろん、日々を生きる私たちにも本書が心に響くのは、そこにまぎれもない家族の物語があるからだ。ケアするすべてに。

 

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